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開業コラム

クリニックの労務トラブルと就業規則|『10人以上で義務』ではなく最初の1人の前に整える

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開業準備でスタッフを雇い始めると、労務管理が経営者としての新しい仕事になります。ところが就業規則については「常時10人以上で義務、うちはまだ少ないから後で」と後回しにされがちです。これは順番を誤っています。結論から言うと、就業規則は『義務だから作る書類』ではなく、トラブルが起きたときに院長を守る防御装置です。そして労務トラブルは、起きてから対応するのではなく、事前の備えでしか防げません。この記事では、その理由を具体的に見ていきます。

「10人以上で義務」だが、本質は防御

まず制度を確認します。労働基準法第89条により、常時10人以上(パートやアルバイトも含む)を雇うクリニックは、就業規則を作成し労働基準監督署へ届け出る義務があります。10人未満なら作成義務はありません。

しかし義務がないこととルールが要らないことは別です。ルールが明文化されていないと、スタッフを注意・指導すること自体が難しく、法的に不利な立場に置かれることもあるとされます。就業規則は、トラブル時にクリニック側の対応の正当性を裏づける根拠になります。だから10人未満でも、不公平感や紛争が芽を出す前に早期に整えるのが望ましい、と専門家は指摘します。

代表的なトラブルは、いずれも「事前にしか備えられない」性質を持ちます。

トラブル主なリスク事前の備え
未払い残業代時効(原則3年)ぶんをさかのぼって請求されうる勤怠を正確に記録し、労働時間の範囲を最初から設計
解雇・本採用拒否解雇無効・損害賠償を求める訴訟のリスク就業規則の整備と、指導経過の記録の積み上げ
服務・情報漏えい患者のプライバシーと信頼の毀損服務規律やSNS利用の規定を明文化

労務トラブルは「事後対応」が効かない——未払い残業の例

なぜ事前でないと駄目なのか。未払い残業代がわかりやすい例です。診療時間外の患者対応や、診療の準備・片付けといった業務も労働時間として扱う必要があり、ここを曖昧にすると未払いが積み上がります。

問題は時間差です。残業代の請求権の消滅時効は原則3年(将来的に5年とする方向が予定されているとされます)。つまり管理が甘いまま数年が過ぎると、後から数年ぶんをさかのぼって請求されうるということです。起きてから慌てても、過去の記録は作り直せません。勤怠を正確に記録し、労働時間の範囲を最初から設計しておくことでしか防げないのです。

解雇は、もっと事後対応が効かない

解雇はさらに事前依存が強い領域です。日本の法律では従業員の立場が強く守られており、その場の勢いでの解雇は、後に解雇無効や損害賠償を求めて訴えられるおそれがあります。解雇が有効とされるには、客観的で合理的な理由があり、社会通念上も相当と認められる必要があるとされます。

しかも、勤務態度や成績を理由にする場合でも、まず改善を促す指導を行い、その経過を記録として残しておくことが求められます。「問題があるから辞めてもらう」を成立させるのは、その場の判断ではなく、それまで積み上げた記録です。試用期間中であっても労働契約は有効で、本採用の拒否を自由にできるわけではありません。

だから「最初の1人」の前に、規模とルールを設計する

こう見ると、労務対策の要点は「起きる前」に集約されます。就業規則で服務規律を定め、患者のプライバシー保護やSNS利用の規定まで明文化しておく。勤怠管理の仕組みを最初から入れる。これらは人を雇う前に整える土台です。

そして忘れてはならないのが、労務リスクは雇う人数に比例して増えるということです。何人を雇う規模なのかは、突き詰めれば患者数の見込みで決まります。過大に採用すれば人件費だけでなく労務リスクも膨らみ、過小なら現場が回りません。適正な規模の見極めが、労務リスク管理の入口でもあるのです。

まとめ

就業規則は10人以上で作る義務の書類である前に、院長を守る防御装置です。未払い残業も解雇トラブルも、起きてから対応するのではなく、事前のルールと記録でしか防げません。だから義務の有無ではなく、最初の1人を雇う前に体制を整えるのが正しい順番です。そしてその体制の規模は、見込む患者数から逆算されます。人員規模の前提になる地域の需要は、公的データで費用をかけず確かめられ、無理のない人員規模と労務体制を設計する土台になります。

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本記事は開業検討の参考情報であり、開業の成否を保証するものではありません。出典・参照資料:クリニックの労務管理・就業規則に関する解説メディア各種(法令・時効は制度に基づく/運用は事案で異なる)。