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開業コラム

一人医師のクリニックで院長はどう休むか|休みは福利厚生ではなく事業継続の設計

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「開業したら、もう休めなくなるのではないか」。学会も、家族の行事も、自分が寝込んだ日も、診るのは自分しかいない。この不安は正しく、しかも休めなくなる原因は院長の気力ではなく構造にあります。そして構造の大半は、開業してから頑張って変えるものではなく、開業前の設計で決まってしまいます。

休診日に止まるのは売上だけで、費用は止まらない

一人医師のクリニックでは、院長が診療しない日の医業収入はほぼゼロになります。一方で、家賃・スタッフの給与・医療機器のリース料・借入金の返済は、診療の有無にかかわらず発生し続けます。休業時の備えを扱う解説でも、休診中も続く支出としてスタッフ給与・テナント家賃・借入返済が挙げられています。

さらに、勤務医時代と違い、自営の開業医が加入する国民健康保険には傷病手当金が原則としてありません(法律上は任意給付にあたりますが、市町村国保では支給の実績がないとされます。国保組合など加入先によって扱いが異なる場合があるため、自分の加入先の給付内容は確認してください)。つまり休んだ1日は「売上がゼロの日」ではなく、固定費のぶんだけ確実にマイナスが出る日です。1日あたりいくらのマイナスかは、固定費の水準で人によって何倍も変わります(クリニックの損益分岐点はどう計算する?|「1日何人」は固定費と単価で変わる)。

代診は「頼めば埋まる」わけではない

では代診を立てればよいのか、という話になりますが、ここには費用と代替可能性の2つの壁があります。

費用の目安として、医師のスポット勤務は時給1万円前後が相場と説明されることが多く、業務別では、健診が半日4〜6万円・1日10万円前後、眼科の日勤が5〜8万円、当直が1回4〜8万円、人工透析の管理が1回10万円前後といった水準が挙げられています。診療科・地域・業務内容によって幅が大きく、これらは募集条件の目安であって、自院に同じ条件で来てもらえることを意味しません。

判断の基準は単純で、その日の診療で固定費と代診料の両方を上回れるかどうかです。上回らないなら、代診を入れるより閉めたほうが損失は小さくなります。そしてもう一つの壁が代替可能性です。処置や検査が自分の手技に依存している外来ほど、代わりが効かず、頼める相手も限られます。

不在の長さ現実的な打ち手判断のポイント
半日〜1日事前告知のうえ休診、または診療日の振替代診料より休診のほうが安いことが多い
数日まとめて休診、または顔の見える相手に代診を依頼予約・処方の期限が切れる患者を先に処理できるか
数週間代診を組む前提。継続処方と再診間隔を組み替える患者の受け皿を近隣にどう頼むか
数か月以上所得補償の保険と、体制そのものの見直し固定費を止められないなら、止める判断の期限を決めておく

表のうち、実際に多くの院長がつまずくのは真ん中の2行です。半日の不在は誰でも吸収でき、数か月の離脱は保険の話として語られますが、数日から数週間の不在だけが、事前の当てを持っていないと突然どうにもならなくなります。

混同されやすい2つの不在

不在には性質の違う2種類があり、対策も別物です。ここを混同すると、備えたつもりで穴が残ります。

  • 計画的な不在(学会、研修、家族の行事、出産・育児)。時期が事前に分かるので、診療日の並べ方と告知で吸収できる運用の問題です。
  • 不測の離脱(自身の病気・けが・家族の介護)。時期が選べないので、保険と体制の問題になります。

不測のほうについては、長期の所得補償保険には保険金の支払いが始まるまでの免責期間があり、一般に60日・90日・180日などから選ぶとされます。期間を長くすると保険料は下がりますが、その間の運転資金は自分で持たなければなりません。保険は「長い離脱で生活と返済を守る」ための道具であって、来月の学会や来週の発熱を解決してはくれません。 短い不在は、保険ではなく設計でしか解けません。手元資金の厚みそのものが最初の備えになります(開業後の資金繰りの守り方|『黒字かどうか』ではなく『月末に現金が残るか』で見る)。

休めるかどうかは、開業前にほぼ決まっている

休みの取りやすさを後から変えるのは簡単ではありません。効くのは、開業前に決めてしまう次の3つです。

  1. 固定費の水準。借入額と家賃を上げるほど、1日休むことの価格が上がります。同じ休みでも、固定費の重いクリニックでは決断が重くなります。
  2. 診療日の並べ方。週のどこを閉めるかは働き方の話に見えて、実際にはどの患者層を取るかの選択です。開業後に休診日を増やす変更は、患者にとっては減った側の変更として受け取られます。
  3. 代診の当て。頼める相手は開業してから探すより、在職中の関係の延長で持っておくほうが確実です。これは退職の作法とも直結します(開業前の退職交渉と競業避止|争点は「辞められるか」ではなく「辞めたあと地域でやっていけるか」)。

長い離脱や閉院まで視野に入れた備えは、入口の資金計画に織り込んでおく論点です(開業医の『万一』と『出口』への備え|入口の資金計画に、辞めるときの費用と時間を織り込む)。

まとめ

一人医師のクリニックで休みが取れないのは、責任感の強さの問題ではありません。売上だけが止まって費用が止まらないという収支の構造と、代わりが効きにくいという診療の構造が重なった結果です。だから休みは福利厚生ではなく、診療を続けるための設計そのものとして、固定費・診療日・代診の当ての3点を開業前に決めておく話になります。

そして固定費をどこまで背負えるかは、その場所でどれだけの需要が見込めるかと表裏の関係にあります。地域の人口構成・競合の分布・これからの需要は公的なデータで確かめられ、そこに1円もかかりません。

お探しの市区町村の人口動態・競合クリニック密度はエリア別の開業データから確認できます。

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本記事は開業検討の参考情報であり、開業の成否を保証するものではありません。出典・参照資料:【業界の一般的な相場情報(公的統計ではない)】医師のスポット・非常勤勤務の単価目安(時給1万円前後、健診 半日4〜6万円・1日10万円前後、眼科日勤5〜8万円、当直1回4〜8万円、人工透析管理1回10万円前後): マイナビDOCTOR「医師のアルバイトの時給相場は?高時給求人の探し方」 https://doctor.mynavi.jp/column/knowledge028/ (2026-07-22取得)。求人市場で提示される条件の目安であり、自院が同条件で代診を確保できることを保証するものではありません。 【業界の一般的な解説】開業医(自営)には健康保険の傷病手当金がないこと、休診中も継続する支出(スタッフ給与・テナント家賃・借入金返済)、長期所得補償保険の免責期間が一般に60日・90日・180日などから選択され期間が長いほど保険料が下がること: FPサービス株式会社「開業医に必要な就業不能時の備え」 https://www.doctorsupportnet.jp/fp/disability.html (2026-07-22取得)。保険の条件・名称・免責期間の選択肢は商品ごとに異なります。 【公的制度の一般的な解説】国民健康保険に傷病手当金が原則としてなく(法律上は任意給付、市町村国保では支給実績がないとされる)、自営業者は働けない期間の所得補償が公的制度で埋まらないこと: 保険比較ライフィ「国民健康保険に傷病手当金はない」 https://lify.jp/insurance/public/medical-public/article-2126/ (2026-07-22取得)。国保組合など加入先により扱いが異なる場合があります。 本記事の金額・日数は一般的な目安であり、市場平均や特定の結果を保証するものではありません。制度・保険商品・相場は今後変更され得ます。傷病手当金など公的制度の適用、保険の要否と設計、代診の契約形態(雇用か業務委託か)についての個別判断は、所轄の窓口・社会保険労務士・税理士・保険の専門家にご確認ください。