開業コラム
開業医と勤務医はどちらがいいか|比べるのは『年収の額面』ではなく期待値と分散(リスク)
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「開業医の平均年収は約2,600万円、勤務医は約1,400万円」——こうした数字を見ると、開業は収入を上げるための手段のように思えます。しかし、この額面だけで「開業したほうが得」と判断すると、大事な部分を見落とします。結論から言うと、開業と勤務のいちばんの違いは平均収入の高さではなく、その平均の裏で「収入のばらつき(分散=リスク)」を自分で引き受けるかどうかです。比べるべきは額面ではなく、収入の期待値と分散、そして自由と責任の質です。この記事では、その3軸で整理します。
額面の1.8倍差は「期待値」にすぎない
まず数字を確認します。開業医の平均年収は約2,600万円、勤務医は病院で約1,400万円、診療所で約1,000万円程度とされ、開業医は勤務医のおよそ1.8倍という調査もあります。ただし注意すべき点が2つあります。
第一に、開業医の「年収」は経費や借入返済を引く前の事業の数字に近く、手元に残る手取りは平均1,600万円前後(試算により幅があり、条件次第ではこれを下回ることもあります)まで縮むとされます。この目減りの構造は、開業医の手取りの記事で詳しく整理しています。第二に、これはあくまで平均=期待値であって、全員がこの額に届くわけではありません。開業医のうち一定割合(約5%との見方もあります)は、勤務医の年収を下回るとされ、その多くは立ち上がりがうまくいかなかったケースです。平均は「うまくいけば」の姿にすぎません。
開業が引き受けるのは「分散」——ばらつきの正体
ここが核心です。勤務医の収入は、額は頭打ちでも、月ごとの振れは小さく安定しています。対して開業医の収入は、上限が高い代わりに下限も低く、ばらつき(分散)が大きいのが本質です。このばらつきは、主に次のような要因から生まれます。
- 開業直後は患者数が立ち上がり途中で、収入が勤務医時代を下回る期間が生じ得る。
- 人件費・家賃・返済といった固定費は、患者数に関わらず出ていく。
- 院長自身が病めば、収入そのものが止まる。
勤務医が「安定」と引き換えに収入の上限を諦めているのに対し、開業医は「上限」と引き換えにこのばらつきを引き受けています。開業とは、平均収入を上げる行為である前に、収入の分散を自分の側に移す選択なのです。
お金以外の2軸——自由と、責任の質
違いは収入だけではありません。働き方と責任の質も、勤務医とは別物になります。
自由の面では、開業医は診療方針・診療日・診療時間を自分で決められます。午前のみ診療にする、週4日にするといった裁量があり、労働時間の統計でも開業医は週50時間未満の割合が高め(開業医で約64%、病院常勤勤務医で約55%との調査があります)で、当直や急な呼び出しからも距離を取りやすい傾向です。
一方で、その裁量は責任と一体です。勤務医なら組織が分担してくれる経営・労務・各種届出といった診療外の業務を、開業医はすべて自分で背負います。医療上のトラブルへの法的責任も、雇われている立場より重くなりがちだとされます。自由と責任は別々の項目ではなく、「裁量を得る代わりに、その全部を自分で引き受ける」という一つのことの裏表です。
だから問いは「どっちが得か」ではない
こう整理すると、開業か勤務かは「どちらが儲かるか」で決める問いではないと分かります。3つの軸で並べると、選んでいるものが見えてきます。
| 軸 | 勤務医 | 開業医 |
|---|---|---|
| 収入 | 期待値は低め・分散は小さい(安定) | 期待値は高め・分散は大きい(上限も下限も広い) |
| 自由・裁量 | 勤務先の方針に従う | 診療方針・曜日・時間を自分で決められる |
| 労働と責任 | 当直・呼び出しあり/責任は組織と分担 | 労働時間は抑えやすいが、経営・事務・法的責任も負う |
どの列が「正解」ということはありません。安定を重く見るなら勤務、上限と自由を取りにいくなら開業、というだけです。そして開業を選ぶなら、引き受けた分散をできるだけ小さくすること——立ち上がりの谷を浅くすることが、次の課題になります。
まとめ
開業医と勤務医は、年収の額面(約2,600万円と約1,400万円)だけで比べるものではありません。開業は平均を上げる手段である前に、収入のばらつき(分散)を自分の側に引き受け、その代わりに上限と自由を得る選択です。約5%は勤務医を下回るという見方が、その分散の現実を示しています。だとすれば、開業を選ぶ人にとって次に効くのは、引き受けた分散を左右する「その場所に、安定した患者需要があるか」です。候補地の需要・競合・将来推計は公的データで無料で確かめられ、開業という選択のばらつきを事前にどこまで小さくできるかを見積もる土台になります。
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