開業コラム
「高齢化率が上がる街は高齢の患者が増える」を政府データで検算する — 化率が上がる1,809自治体の62.1%で高齢者の実数はむしろ減る
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通説:「高齢化率が上がる地域なら、高齢の患者は増え続ける」
開業地の検討でよく使われる指標に「高齢化率」があります。「この街は高齢化率が上がり続けるから、内科など高齢者向けの外来は安泰」という説明は、診療圏の資料でもしばしば見かけます。
しかし高齢化率は「65歳以上の人口 ÷ 総人口」という割合です。割合が上がることと、患者のもとになる高齢者の実数が増えることは、別の話です。分母の総人口が速く縮めば、高齢者が減っていても化率は上がります。
この記事では、その乖離が全国でどれだけ起きるのかを政府データで検算します。意見ではなく計算です。
計算方法(先に示します)
使ったデータは次の2つだけです。
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」中位仮定: 全国1,884自治体(政令指定都市20市は親市コードを除き行政区で計上)の2025年・2035年の5歳階級別人口。
- 厚生労働省「令和5年患者調査」: 診療科別・年齢階級別の外来受療率(全国値)。
各自治体について、次の3つを計算しました。
- 高齢化率の変化: 65歳以上人口の割合(2025年→2035年)。
- 高齢者実数の変化: 65歳以上人口そのもの(2025年→2035年)。
- 内科の外来需要指数: 年齢階級別人口 × 内科の外来受療率を足し上げた値を2025年=100とした2035年の指数。受療率は全国値で固定し、人口構成の変化だけを反映します。
結果:化率が上がる1,809自治体のうち、62.1%で高齢者の実数は減る
まず全1,884自治体を「化率の増減」×「65歳以上実数の増減」で4つに分けると、次のようになりました。
| 区分 | 自治体数 | 化率の変化(平均) | 65歳以上実数の変化(平均) | 内科の2035年需要指数(平均) | 需要が増える自治体 |
|---|---|---|---|---|---|
| A: 化率上昇 × 実数増 | 686 | +3.4pt | +7.8% | 103.3 | 532 (77.6%) |
| B: 化率上昇 × 実数減 | 1,123 | +3.3pt | -9.5% | 90.2 | 11 (1.0%) |
| C: 化率低下 × 実数増 | 3 | -0.3pt | +2.1% | 105.9 | 3 |
| D: 化率低下 × 実数減 | 72 | -1.3pt | -17.4% | 86.4 | 5 |
高齢化率が上がる自治体は1,809(全体の96.0%)と、ほぼ全国です。ここまでは通説どおりです。
問題はその中身です。化率が上がる1,809自治体のうち1,123(62.1%)では、65歳以上の実数がむしろ減ります。
注目すべきは、AとBで化率の上昇幅がほぼ同じ(+3.4pt と +3.3pt)であることです。つまり「化率がどれだけ上がるか」を見ても、AとBは区別できません。それでも内科の需要指数は103.3と90.2に割れ、需要が増える自治体の割合は77.6%と1.0%という正反対の結果になります。効いているのは化率ではなく実数です。
乖離は小さな自治体ほど起きやすい
「化率は上がるのに実数は減る」自治体(B)が、化率上昇自治体のうちどれだけを占めるかを人口規模別に見ると、きれいな勾配が出ます。
| 人口規模(2025年) | 化率が上がる自治体 | うち65歳以上実数が減る | 割合 |
|---|---|---|---|
| 20万人以上 | 158 | 14 | 8.9% |
| 5〜20万人 | 495 | 155 | 31.3% |
| 2〜5万人 | 394 | 272 | 69.0% |
| 2万人未満 | 762 | 682 | 89.5% |
人口20万人以上の自治体では乖離は8.9%と例外的ですが、2万人未満では89.5%、つまり約9割の自治体で「高齢化率は上がるのに高齢者は減る」が起きます。小さな街ほど、高齢化率は開業判断の指標として機能しにくくなります。
なぜそうなるか:分母が先に縮む
機序はデータでそのまま確認できます。B(化率上昇×実数減)の自治体では、2025年から2035年にかけて総人口が平均-16.2%と大きく縮む一方、65歳以上は平均-9.5%の減少にとどまります。分母(総人口)が分子(高齢者)より速く縮むため、高齢者が減っていても割合としての化率は上がるわけです。
これは、高齢者の実数がすでにピークを過ぎた地域で典型的に起きます。かつての高齢化の主役だった世代が減少局面に入り、後に続く世代はもっと少ない。それでも若年層の減少がさらに速いため、統計上の「高齢化率」は上がり続けます。規模別の需要勾配については、以前の検算記事「「地方は高齢化だから内科は患者が増える」を政府データで検算する」でも同じ構造を確認しています。
開業判断で見るべきは「化率が上がるか」ではなく、「診療の対象になる年齢層の実数がどう動くか」です。
言えること・言えないこと
言えること
- 高齢化率が上がる自治体は1,884のうち1,809(96.0%)とほぼ全国だが、その62.1%(1,123自治体)では65歳以上の実数が2025年→2035年に減る(社人研 令和5年推計・中位仮定)。
- 化率の上昇幅がほぼ同じでも、高齢者実数が増えるか減るかで内科の外来需要指数(平均)は103.3と90.2に割れる。
- この乖離は人口規模が小さいほど起きやすく、2万人未満の自治体では化率上昇組の89.5%で実数が減る。
言えないこと
- 需要指数は2025年を100とした相対値であり、患者数やクリニックの売上を予測するものではない。
- 受療率は令和5年患者調査の全国値で固定しており、受診行動や医療制度の将来変化は反映していない。
- 将来人口は中位仮定という1つのシナリオであり、個別自治体の実際の推移はぶれうる。
- 個別の自治体の開業の可否をこの集計だけで判断することはできない。競合の状況や診療圏の細かい人口分布は別途の確認が必要になる。
お探しの市区町村の人口動態・競合クリニック密度はエリア別の開業データから確認できます。
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