開業コラム
「政令市なら都市部だから安心」を政府データで検算する — 同じ市の中でも内科の10年後需要は最大24.3ポイント割れる
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「政令指定都市なら、どの区も都市部だから需要は堅い」
開業のエリア検討は、しばしば市の単位で語られる。「横浜市は人口が多い」「大阪市なら患者が途切れない」といった言い方だ。政令指定都市は人口規模が大きく、市全体で見れば人口減少の影響も緩やかに映る。
しかし実際の診療圏になるのは市全体ではなく、その中の1つの区とその周辺である。市の数字は、区の実態をどこまで代表しているのか。政府データで検算した。
計算方法(意見ではなく計算)
使ったデータは2つだけで、いずれも公的統計である。
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」(令和5年推計・中位仮定)の5歳階級別人口
- 厚生労働省「令和5年(2023年)患者調査」の年齢階級別・外来受療率(全国値)
外来需要指数は次のように定義する。
- demand(エリア, 診療科, 年) = Σ 年齢階級ごとに(人口 × 受療率 ÷ 100,000)
- 指数(年) = demand(年) ÷ demand(2025) × 100(2025年 = 100)
対象は全国20の政令指定都市に属する175の行政区、診療科は内科、比較年は2035年である。ここで出るのは意見ではなく、この2つのデータを掛け合わせた計算結果にすぎない。受療率は全国共通の値を当てているので、区ごとの差はすべて「年齢構成の差」から生じる。
結果:市の中の落差は、中央値で10.5ポイント
175区の2035年指数は、最小83.4(浜松市 天竜区)から最大115.1(横浜市 都筑区)まで分布した。中央値は103.1、100以上の区が128(73.1%)、100未満の区が47(26.9%)である。
注目すべきは、この落差が「市と市の間」だけでなく「同じ市の中」にも現れることだ。各市の最大区と最小区の差(市内レンジ)は、20市の中央値で10.5ポイント、平均で10.9ポイントあった。そして20市のうち15市では、指数が100以上の区と100未満の区が同居している。
市全体の指数と、その市の区の幅を並べると次のようになる。
| 市 | 市全体の指数 | 最も高い区 | 最も低い区 | 市内レンジ |
|---|---|---|---|---|
| 大阪市(24区) | 101.0 | 天王寺区 111.0 | 西成区 86.7 | 24.3 |
| 浜松市(7区) | 101.2 | 浜北区 105.8 | 天竜区 83.4 | 22.4 |
| 横浜市(18区) | 105.2 | 都筑区 115.1 | 栄区 97.1 | 18.0 |
| 札幌市(10区) | 106.2 | 中央区 113.4 | 南区 97.6 | 15.8 |
| 神戸市(9区) | 100.9 | 中央区 109.2 | 長田区 95.2 | 14.0 |
| 北九州市(7区) | 96.9 | 小倉北区 100.3 | 門司区・八幡東区 90.0 | 10.3 |
大阪市は市全体では101.0、つまり10年後もほぼ横ばいという計算になる。しかし24区の内訳は86.7から111.0まで割れており、市の数字はその中間を通っているだけである。
なぜ同じ市の中で割れるのか
受療率は全国共通の値を使っているので、区ごとの差を生んでいるのは年齢構成だけである。実際、175区の指数と年齢指標の関係を計算すると、次の2つが出る。
- 2025年時点の高齢化率(65歳以上の割合)と2035年指数の相関係数:−0.849
- 2025年から2035年の65歳以上人口の増減率と2035年指数の相関係数:+0.944
内科の受療率は高齢層で高いため、指数は「65歳以上の人が今後さらに増えるかどうか」でほぼ決まる。そして高齢者の実数が増えるのは、いま高齢化率が低い区の方である。すでに高齢化が進んだ区は、高齢者の数そのものが減る局面に入りつつある。
| 区 | 2025年の高齢化率 | 65歳以上人口の増減(2025→2035) | 2035年指数 |
|---|---|---|---|
| 横浜市 都筑区 | 20.6% | +38.0% | 115.1 |
| 札幌市 中央区 | 25.1% | +22.0% | 113.4 |
| 大阪市 西成区 | 39.3% | −12.8% | 86.7 |
| 浜松市 天竜区 | 49.4% | −16.4% | 83.4 |
「高齢化が進んだ地域ほど患者が増える」という直感は、この計算では支持されない。同じ構図は市の規模で見たときにも現れており、「地方は高齢化だから内科は患者が増える」を政府データで検算するでも同じ方向の結果になっている。
言えること・言えないこと
言えることは限られている。
- 政令指定都市の中でも、区によって10年後の外来需要の方向は分かれる。20市のうち15市で、指数100以上の区と100未満の区が同居している。データ上は、市の単位で診療圏を評価すると区ごとの差が平均に埋もれる、ということになる。
- この前提では、区の指数の高低はほぼ年齢構成(特に65歳以上人口が今後増えるか)で説明できる。
言えないことも明記しておく。
- 指数は2025年を100とした相対値であり、患者数の絶対予測でも、クリニックの売上予測でもない。
- 受療率は令和5年患者調査の全国値を全年で固定して当てている。将来の受療行動の変化、医療提供体制の変化は反映していない。
- 人口は社人研 令和5年推計の中位仮定という1つのシナリオである。前提が変われば結果も変わる。
- 指数が高い区が「開業に有望」という意味ではない。競合の数、賃料、交通条件など、この計算に入っていない要素は多い。指数はあくまで需要側の1つの断面である。
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