開業コラム
診療圏調査の『1日推定◯人』はどこまで信じていいか|数字ではなく式の前提を読む
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開業準備で診療圏調査を受け取ると、真っ先に目が行くのが「1日推定患者数◯人」という数字です。この数字が損益分岐点を上回っているかで、開業の可否を判断したくなります。しかし、この数字を確定した見込みとして鵜呑みにするのは危険です。結論から言うと、推定患者数は事実ではなく、ひとつの計算式の出力にすぎません。だから正しい読み方は、数字そのものを信じることではなく、その式がどんな前提を置いているかを点検することです。この記事では、式の中身・その前提・現実とのズレを順に見ていきます。
推定患者数は、この式で出ている
まず、あの数字がどう計算されているかを分解します。一般的な算式は「エリア人口 × 受療率 ÷(診療科目別の競合医院数 + 1)」です。
| 要素 | 中身 | 出典・注意点 |
|---|---|---|
| エリア人口 | 診療圏内の居住人口(半径500mの一次・1000mの二次を同心円で置くのが一般的) | 実際の来院範囲は同心円どおりにはならない |
| 受療率 | 人口10万人あたりの受診数(性・年齢・傷病別) | 厚生労働省の患者調査(3年ごと)に基づく |
| 競合医院数 + 1 | 科目別の競合数に自院分の「1」を足して割る | 競合の数え方と精度で結果が大きく動く |
この式自体は合理的です。問題は、式が成り立つためにいくつかの「現実には必ずしも成り立たない前提」を置いていることです。
式が暗黙に置いている3つの前提
分解すると、この計算は次の3つを仮定しています。①競合医院数のデータが正確であること。②エリア内の患者が、半径の同心円に沿ってほぼ均等に分布し来院すること。③競合各院の集患力が等しく、患者が競合数で単純に頭割りされること。
この3つが成り立てば、式の出力はそのまま実態に近づきます。しかし現実の街では、いずれも程度の差はあれ崩れます。「1日◯人」を読むとは、この3つの前提が自分の候補地でどれだけ崩れるかを見積もることにほかなりません。
現実は、どこで前提が崩れるか
前提ごとに、ズレの正体を挙げます。まず競合数のデータには、閉院や新規開業の反映にタイムラグが生じることがあり、数が実態とずれれば分母がずれます。次に患者の分布は、同心円ではなく「生活動線」に従います。たとえば線路や踏切、渡りにくい橋があると、直線距離では近くても人は流れません。そして競合の集患力——人気や評判の差は、この式にはほとんど反映されません。昼間人口や人口構成の変化も、単純な居住人口だけでは捉えきれない部分です。
つまり推定患者数は、「これらのズレをすべて無視したら何人になるか」という理想値であって、そのまま実際の来院数になる保証はありません。
だから読むべきは、数字より「分母の競合数」
では何を重点的に点検すべきか。3要素のうち、人口と受療率は公的な統計に基づくため比較的動きにくい一方、結果を最も大きく動かすのは分母の競合数です。競合を1つ多く、あるいは少なく数えるだけで、推定患者数は無視できないほど振れます。だからこそ、業者の調査を受け取ったら、まず競合数が実態(届出ベースの実数)と合っているかを自分で確かめる価値があります。競合の集患力までは式に入らないとしても、少なくとも「数」の正確さは検算できます。なお、診療圏調査を自分で行う手順は別の記事でも解説しています。
まとめ
診療圏調査の「1日推定◯人」は、確定した見込みではなく「人口×受療率÷(競合数+1)」という式の出力です。この式は競合数の正確さ・患者の均等分布・集患力の均等を暗黙に仮定しており、現実の生活動線や評判は入っていません。だから数字を信じるのではなく、前提がどれだけ崩れるか——とりわけ分母の競合数が正しいか——を点検するのが正しい読み方です。式の入力になる人口・受療率・競合の届出実数は、いずれも公的データで無料で確認でき、業者の数字をそのまま鵜呑みにせず自分で検算する土台になります。
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