開業コラム
「子育て世帯の多い街なら小児科は大丈夫」を政府データで検算する — 10年後に需要が増える自治体は1,904のうち29(1.5%)
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開業の話題では「少子化だから小児科は厳しい」とよく言われる一方で、「子育て世帯が集まる街を選べば小児科の需要は保てる」という話も同じくらいよく聞きます。では実際に、10年後に小児科の外来需要が増える自治体は全国にどれだけあるのでしょうか。全国平均の一言で片付けず、1,904自治体を1つずつ計算してみます。
計算方法を先に出します
使ったデータは2つだけです。意見ではなく計算の結果を示します。
- 将来人口: 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」の中位仮定。市区町村別・5歳階級別。
- 外来受療率: 厚生労働省「令和5年(2023年)患者調査」の外来受療率(人口10万対、全国値)。診療科別・年齢階級別。
この2つを掛け合わせ、自治体ごとの外来需要を次のように定義します。
- 需要(自治体, 診療科, 年) = Σ_年齢階級(その階級の人口 × その階級の受療率 ÷ 100,000)
- 需要指数(年) = 需要(年) ÷ 需要(2025年) × 100(2025年 = 100)
小児科について1点補足します。令和5年患者調査の小児科の外来受療率は、0〜4歳が6,326.2、5〜9歳が5,196.0、10〜14歳が3,680.0(いずれも人口10万対)で、15歳以上はゼロです。つまり小児科の需要指数は、実質的に「0〜14歳人口が10年後にどれだけ残るか」を、年齢の重み付き(低年齢ほど重い)で測った値になります。高齢化がどれだけ進んでも、この指数は押し上げられません。
結果: 需要が増える自治体は1,904のうち29(1.5%)
2035年の小児科の外来需要指数(2025年 = 100)を全1,904自治体について計算しました。
| 指標 | 2035年の小児科 外来需要指数 |
|---|---|
| 全国合計(全自治体の需要を足し上げた値) | 88.1 |
| 自治体の中央値 | 78.4 |
| 上位10%ライン(90パーセンタイル) | 92.8 |
| 下位10%ライン(10パーセンタイル) | 64.4 |
| 指数が100以上(需要が増える)の自治体 | 29/1,904(1.5%) |
| 指数が80未満(2割以上減る)の自治体 | 1,027/1,904(53.9%) |
| 指数が70未満(3割以上減る)の自治体 | 469/1,904(24.6%) |
まず目を引くのは、全国合計(88.1)と自治体の中央値(78.4)の10ポイントの差です。全国合計は人口の多い都市部の重みが大きく出るため、「全国では12%減」という数字になります。一方、1自治体を1票として並べたときの真ん中は22%減です。全国平均だけを見ると、多くの自治体で起きる減り方を小さく見積もることになります。
比較のために、同じ計算を他の科でも行うと、全国合計の2035年指数は内科が101.0、整形外科が99.5、小児科が88.1でした。年齢プロファイルの違いがそのまま出ています。
人口規模別: どの規模帯でも中心は100を下回る
自治体を2025年の総人口で4つの規模帯に分け、2035年の小児科需要指数を見ます。
| 人口規模(2025年) | 自治体数 | 平均指数 | 中央値 | 指数100以上の自治体 |
|---|---|---|---|---|
| 20万人以上 | 178 | 90.5 | 90.0 | 16(9.0%) |
| 5〜20万人 | 498 | 85.5 | 86.3 | 8(1.6%) |
| 2〜5万人 | 401 | 77.1 | 77.1 | 2(0.5%) |
| 2万人未満 | 827 | 72.4 | 71.9 | 3(0.4%) |
規模が大きいほど減り方は緩やかで、指数が100以上になる自治体の割合も、20万人以上では9.0%と他の帯より高くなります。ただしそれでも、20万人以上の178自治体のうち91.0%は2035年の指数が100を下回ります。都道府県単位で足し上げると、2035年に指数が100以上になる県は47のうちゼロで、最も高い東京都でも97.7でした。データ上は「どこかに小児科の需要が伸びる規模帯がある」という構図ではなく、どの規模帯でも中心は100の下側にある、という形です。
なぜそうなるか: 総人口が増えても子どもは減る
機序は年齢構成にあります。全国の0〜14歳人口は2025年の16,669,224人から2035年には14,409,535人へ(指数86.4)、同じ期間に65歳以上は104.2、総人口は95.1です。総人口の減り方(-4.9%)よりも、0〜14歳の減り方(-13.6%)のほうが大きい。小児科の需要は前者ではなく後者に連動します。
この乖離は、人口が増える自治体でも起きます。2035年の総人口が2025年以上になる自治体は全国に141ありますが、そのうち81.6%では、小児科の需要指数は100を下回ります。総人口が増える141自治体の小児科指数の平均は96.4で、総人口と小児科需要の両方が増えるのは26自治体(全1,904自治体の1.4%)でした。「人口が増えている街だから子どもも増える」という置き換えは、この推計では成り立ちにくいということです。
なお、期間を2040年まで伸ばすと、全国合計の指数は86.1、自治体の中央値は73.5、指数100以上の自治体は35(1.8%)となります。2035年から先で傾きが急に変わるわけではありません。
科ごとの年齢プロファイルの違いについては、「地方は高齢化だから内科は患者が増える」を政府データで検算するでも、内科を題材に同じ手法で計算しています。
言えること・言えないこと
言えること:
- 令和5年推計(中位仮定)と令和5年患者調査の受療率を掛け合わせると、小児科の2035年外来需要指数が100以上になる自治体は1,904のうち29(1.5%)である。
- 全国合計(88.1)と自治体の中央値(78.4)には10ポイントの差があり、全国平均は多くの自治体の減り方より小さく出る。
- 総人口が増える141自治体でも、81.6%では小児科の需要指数は100を下回る。
言えないこと:
- この指数は2025年を100とした相対値であり、患者数の絶対予測でも、クリニックの売上・収益の予測でもない。
- 受療率は全国値で固定しており、将来の受療行動の変化(受診率の増減、オンライン診療の普及、感染症の流行状況など)は反映していない。
- 社人研の中位仮定という1つのシナリオに基づく。出生・移動の前提が変われば結果は変わる。
- 需要指数は競合の数や配置を含まない。実際の開業判断では、届出実数ベースの競合状況など別の軸と併せて見る必要がある。
- 個別の自治体について「開業に向く/向かない」を判定するものではない。ここで示したのは全国の分布であって、特定エリアの推奨ではない。
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