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開業コラム

「幅広い年齢が来る科は人口減に強い」を政府データで検算する — 外来需要が高齢層に集中する科ほど2035年も需要が残る

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通説:「幅広い年齢層が来る科は、母集団が大きいから人口減に強い」

開業する診療科を選ぶとき、「特定の年齢に偏らず、子どもから高齢者まで幅広く来院する科のほうが、患者の母集団が大きく、人口が減っても安定する」と語られることがあります。皮膚科や耳鼻咽喉科のような全年齢が対象の科は、その代表格として挙げられがちです。

直感的にはもっともらしく聞こえます。実際にどうかを、政府データだけで計算してみます。

計算方法(意見ではなく計算)

使うデータは2つだけです。

  • 将来人口:社人研「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計・中位仮定)」。全国の5歳階級別人口を2025年と2035年で用意します(政令指定都市は市の合計と区の二重計上を避けるため区で計上し、2025年で約1億2,326万人)。
  • 年齢別の外来受療率:厚労省「令和5年患者調査」の外来受療率(人口10万対、全国値)。診療科ごとに年齢階級別の値があります。

外来需要指数は次のように定義します。ある科について各年齢階級の「人口×受療率」を全国で合計したものを外来需要とし、2025年を100として2035年の値を指数化します。指数は患者の実数ではなく、相対的な増減の目安です。

もう1つ、各科の「年齢プロファイルの尖り」を測るために 高齢集中度 を定義します。これは2025年時点で、その科の外来需要のうち65歳以上が占める割合です。高いほど需要が高齢層に集中し、低いほど全年齢に平坦に分散していることを意味します。

前提として、全国の総人口は2025年の約1億2,326万人から2035年に約1億1,664万人へ、10年で5.4%減る見込みです(社人研 中位推計)。総人口が減るなかで、科ごとに需要がどう振れるかを見ます。

結果:高齢集中度が低い科ほど、10年後の需要は減りやすい

11診療科の2035年外来需要指数(2025=100)は次の通りです。

診療科別・2035年の外来需要指数(2025=100・全国)指数
基準 100100.5内科100.2泌尿器科99整形外科98眼科97.9消化器内科95.6外科94.7精神科94.4皮膚科92.5耳鼻咽喉科91.3産婦人科87.4小児科

各科の指数を高齢集中度と並べると、両者に強い正の関係があることが分かります。

診療科2035年指数高齢集中度(65歳以上)15歳未満の割合
内科100.564.2%8.4%
泌尿器科100.267.1%0.8%
整形外科99.063.4%4.0%
眼科98.061.2%6.8%
消化器内科97.951.7%4.0%
外科95.639.2%11.6%
精神科94.727.6%7.8%
皮膚科94.431.3%16.6%
耳鼻咽喉科92.520.5%35.5%
産婦人科91.38.2%0.4%
小児科87.40.0%100.0%

高齢集中度が6割を超える内科・泌尿器科・整形外科・眼科は、指数がおおむね100前後(横ばい)です。一方、高齢集中度が3割前後かそれ以下の皮膚科(31.3%)・精神科(27.6%)・耳鼻咽喉科(20.5%)は、指数が92〜95にとどまります。「全年齢型」と見なされがちな皮膚科・耳鼻咽喉科は、通説の期待とは逆に、需要が減りやすい側に位置しています。

なぜそうなるか:平坦なプロファイルは総人口の減りにそのまま連動する

機序はデータの構造から説明できます。総人口が5.4%減る一方で、その内訳は一様ではありません。高齢層は当面増え、現役層と子どもが減ります。

  • 需要が高齢層に集中している科(内科・泌尿器科など)は、増える高齢者の受診が、減る若年層の受診を打ち消すため、総人口が減っても需要が横ばいになります。
  • 需要が全年齢に平坦に分散している科は、増える部分(高齢層)の比重が小さく、減る部分(現役・子ども)の比重が大きいため、結果として総人口の減り(5.4%減)に近い動きになります。皮膚科は15歳未満16.6%・高齢31.3%・残りが現役層と分散し、耳鼻咽喉科は15歳未満が35.5%と若年寄りです。どちらも「増える高齢層」への依存が小さいぶん、人口減の逆風をそのまま受けます。

つまり「幅広い年齢が来る」ことは、母集団の大きさではなく、人口が増える層にどれだけ乗れるか という観点では不利に働きます。全年齢型であることは、この10年の人口動態では強みではなく、総人口減への感応度の高さとして表れています。

なお、内科がなぜ横ばいで踏みとどまるのかは、「地方は高齢化だから内科は患者が増える」を政府データで検算する でも地域差の観点から扱っています。

言えること・言えないこと

  • 言えること:全国の合計では、外来需要が高齢層に集中している科ほど2035年の指数が高く、全年齢に平坦な科ほど低い、という強い関係がデータ上みられます。皮膚科・耳鼻咽喉科は「全年齢型」でありながら、指数は総人口の減りに近い側にあります。
  • 言えないこと
    • 指数は2025年を100とした相対的な増減の目安であり、患者の実数やクリニックの売上を予測するものではありません。
    • 受療率は令和5年患者調査の全国値で固定しており、将来の受療行動の変化(受診率の増減、オンライン診療の普及など)は織り込んでいません。
    • これは社人研の中位推計という1つのシナリオに基づく試算です。
    • 全国の合計値であり、同じ科でも地域によって指数は大きく異なります。開業地の判断は、必ず対象エリアの年齢構成で個別に確認してください。
    • 高齢集中度と指数の関係は強い傾向であって、両者が完全に一致するわけではありません(例えば産婦人科は高齢集中度が低いものの、指数は皮膚科より下です)。

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本記事は開業検討の参考情報であり、開業の成否を保証するものではありません。出典・参照資料:社人研R5推計(中位) / 令和5年患者調査。