開業コラム
「県で選ぶ」は診療圏の判断にどこまで使えるか — 内科の2035年外来需要は47都道府県すべてで「県内の差」が「県どうしの差」より大きい
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開業地を検討するとき、「あの県は人口が減るから厳しい」「この県はまだ伸びる」と、都道府県単位で語られることがよくあります。県別のランキング記事も多く、県の名前がそのまま将来性の代名詞のように使われます。
ここでは、その県単位の見立てが診療圏の判断にどこまで使えるのかを、政府データだけで検算します。
使ったデータと計算方法
意見ではなく計算です。使ったのは次の2つだけです。
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」中位仮定。全国1,884自治体(政令指定都市20市は親市コードを除き行政区で計上)の5歳階級別人口(2025年・2035年)。
- 厚生労働省「令和5年(2023年)患者調査」の年齢階級別 外来受療率(人口10万対、全国値)。ここでは内科を使用。
外来需要指数の定義は次のとおりです。
- 需要(自治体, 年) = Σ_年齢階級( 人口 × 受療率 ÷ 100,000 )
- 指数(2035年) = 需要(2035年) ÷ 需要(2025年) × 100(2025年 = 100)
指数は「その自治体の外来需要が2025年比でどう動くか」の相対値です。県の指数は、県内の全自治体の需要を合計してから割った値(人口で重みづけされた県計)です。
結果:県と県の差より、県の中の差のほうが大きい
まず全国の分布です。内科の2035年指数は、1,884自治体の中央値が95.1、最小66.0、最大119.2でした。
次に都道府県計の指数を見ると、最も高い沖縄県が108.5、最も低い秋田県が91.5で、47都道府県の幅は17.0ポイントに収まります。
一方、1つの県の中にある自治体の指数の幅(県内最大 − 県内最小)は、中央値で27.4ポイント。47都道府県のすべてで、県内の幅が「都道府県どうしの幅(17.0ポイント)」を上回りました。 最も狭い栃木県でも18.2ポイントあります。
県内の幅が大きい上位5県は次のとおりです。
| 都道府県 | 自治体数 | 県計の指数 | 県内 最小 | 県内 最大 | 県内の幅 | 自治体の中央値 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 188 | 98.1 | 69.2 | 113.4 | 44.2 | 87.7 |
| 群馬県 | 35 | 99.9 | 66.4 | 109.6 | 43.1 | 96.6 |
| 奈良県 | 39 | 97.8 | 66.0 | 106.7 | 40.8 | 90.7 |
| 山梨県 | 27 | 99.3 | 76.3 | 113.8 | 37.6 | 96.3 |
| 長野県 | 77 | 98.7 | 74.1 | 110.6 | 36.5 | 94.5 |
また、2035年に需要が2025年を上回る自治体と下回る自治体の両方を抱える県は、47県中44県でした。県の中で方向そのものが割れているということです。全自治体が2025年を下回るのは秋田県・島根県・高知県の3県だけです。
県計と、その県の自治体の姿がずれる例
県計は人口の大きい市に引っ張られます。そのため、県計が横ばいでも、県内の大半の自治体は減っている、という組み合わせが起きます。
| 都道府県 | 自治体数 | 県計の指数 | 自治体の中央値 | 指数100未満の自治体の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 188 | 98.1 | 87.7 | 87.8%(165/188) |
| 大阪府 | 72 | 99.8 | 98.4 | 59.7%(43/72) |
| 東京都 | 62 | 106.3 | 105.2 | 16.1%(10/62) |
| 島根県 | 19 | 94.6 | 87.6 | 100%(19/19) |
北海道は県計だけ見ると98.1で、2025年から2ポイント弱の減少にとどまります。しかし市区町村単位で見ると中央値は87.7で、188市区町村のうち165(87.8%)が2025年を下回ります。県計の小幅な減少は、道全体が小幅な減少という意味ではありません。
なぜこうなるのか
データで裏取りできる範囲での機序は2つです。
1つは、指数を分けているのが県境ではなく自治体の規模だという点です。各県で人口が最大の自治体と最小の自治体を取り出して指数を比べると、47県中45県で最大人口の自治体のほうが高く、平均は101.5 対 84.6 でした。県が違っても、県内で人口規模の大きい自治体どうしは似た動きをし、小さい自治体どうしも似た動きをします。
もう1つは、県計が人口による加重平均だという点です。県内の人口が特定の市に集中しているほど、県計はその市の値に近づき、数の多い小規模自治体の動きは県計に現れません。北海道で県計(98.1)と自治体の中央値(87.7)が10.4ポイント離れるのはこの構造によるものです。
なお、県別の平均そのものの比較は都道府県別・内科の外来需要はどこまで残るかで扱っています。本記事は、その平均が県内をどれだけ代表しているかを見た内容です。
言えること・言えないこと
言えること。
- この前提では、内科の2035年外来需要指数について、県内の自治体間の幅は47都道府県すべてで都道府県どうしの幅(17.0ポイント)より大きい。
- 47県中44県は、需要が増える自治体と減る自治体の両方を含む。
- 県計は人口加重のため、県計と県内自治体の中央値は北海道で10.4ポイントずれる。
言えないこと。
- 指数は2025年を100とした相対値であり、患者数やクリニックの売上の予測ではありません。
- 受療率は2023年(令和5年患者調査)の全国値で固定しています。将来の受診行動の変化、医療提供体制の変化、オンライン診療の普及などは反映していません。
- 人口は令和5年推計の中位仮定という1つのシナリオです。他の仮定では値は変わります。
- 自治体は行政区画であり、実際の診療圏とは一致しません。隣接自治体からの流入・流出は含みません。
- この記事は特定のエリアを推奨するものではありません。県名で絞る前に自治体単位を見る、という手順の話に限られます。
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