開業コラム
「都市部は競合が過密、地方は空いている」を届出実数で検算する — 内科クリニックの人口10万対軒数は規模帯で0.99倍〜1.02倍、違うのは水準ではなくばらつき
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開業の検討では「都市部は競合が多くて過密、地方は競合が少なくて空いている」とよく言われます。人口あたりのクリニック数(競合密度)は本当に都市ほど高いのか、届出の実数で数えてみます。
何をどう計算したか(意見ではなく計算です)
使ったデータは2つだけです。
- 厚生労働省 医療情報ネットの届出実数(2025年12月時点)。地図サービスの検索件数ではなく、届出されている施設の数です。今回は「診療所(クリニック)」のみを対象とし、病院は除いています。
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」中位仮定の2025年人口。
計算式は次のとおりです。
- 競合密度 = 自治体のクリニック数 ÷ 自治体人口 × 100,000(人口10万対の軒数)
- 全国平均比 = その自治体の密度 ÷ 全国の密度
集計単位は市区町村および政令指定都市の行政区です(政令市の本体コードは行政区との二重計上になるため除外)。ただし浜松市は2024年1月の区再編(7区→3区)で人口推計の区界と届出の区界が対応しないため、市全体を1つの自治体として集計しました。内科を標榜する診療所は全国で45,680軒、そのうち人口データと突合できた1,878自治体分の45,522軒(99.7%)を集計対象としました。人口10万対の全国密度は36.93軒です。
結果1:規模帯を変えても、人口あたりの軒数はほぼ動かない
人口規模で4つに分けて、それぞれの帯の密度(帯の合計軒数 ÷ 帯の合計人口)を出しました。
| 人口規模 | 自治体数 | 人口10万対の軒数 | 全国平均比 |
|---|---|---|---|
| 20万人以上 | 158 | 36.60 | 0.99倍 |
| 5〜20万人 | 493 | 37.13 | 1.01倍 |
| 2〜5万人 | 400 | 37.17 | 1.01倍 |
| 2万人未満 | 827 | 37.52 | 1.02倍 |
全国平均比で0.99倍から1.02倍の範囲に収まっています。この数え方の範囲では、「大都市ほど人口あたりの競合が多い」という方向は見えません。
結果2:規模で違うのは水準ではなく「ばらつき」
同じ帯のなかで自治体ごとの密度がどれだけ散らばるかを、四分位(下から25%の位置と75%の位置)で見ます。
| 人口規模 | 25%点 | 75%点 | 75%点÷25%点 | 全国平均の2.0倍以上の自治体 | 全国平均の0.5倍未満の自治体 | 0軒の自治体 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 20万人以上 | 28.07 | 41.49 | 1.48倍 | 2.5% | 6.3% | 1 |
| 5〜20万人 | 27.16 | 43.87 | 1.62倍 | 1.8% | 6.9% | 0 |
| 2〜5万人 | 27.11 | 46.82 | 1.73倍 | 2.0% | 9.5% | 0 |
| 2万人未満 | 20.05 | 57.38 | 2.86倍 | 15.4% | 22.6% | 90 |
人口2万人未満の帯では、上下の開きが2.86倍と最も広く、全国平均の2.0倍以上が15.4%、0.5倍未満が22.6%、内科標榜の診療所が0軒の自治体が90ありました。20万人以上の帯では開きは1.48倍にとどまります。データ上は、規模が小さいほど「極端に密」も「極端に薄い」も同時に増える方向です。
結果3:全国の分布は平均の周りに寄っている
1,878自治体を全国平均比のバンドで分けると、次のようになります。
| 全国平均比 | 自治体数 | 自治体の割合 | 人口の割合 | クリニックの割合 |
|---|---|---|---|---|
| 0.5倍未満 | 269 | 14.3% | 7.1% | 2.5% |
| 0.5〜0.8倍 | 399 | 21.2% | 24.0% | 16.3% |
| 0.8〜1.2倍 | 625 | 33.3% | 46.0% | 45.3% |
| 1.2〜2.0倍 | 437 | 23.3% | 20.6% | 29.5% |
| 2.0倍以上 | 148 | 7.9% | 2.2% | 6.4% |
自治体単位の中央値は人口10万対35.33軒(全国平均比0.96倍)、25%点は25.17軒(0.68倍)、75%点は48.77軒(1.32倍)でした。全国平均の2.0倍以上にあたる148自治体は、住んでいる人で見ると全国の2.2%にすぎません。「過密」と呼ばれる水準の密度は、人口の多い場所にまとまって存在しているわけではない、という並びになっています。
結果4:「空白」がどれだけあるかは科によって大きく違う
同じ計算を11科それぞれで行いました。
| 診療科 | クリニック数 | 人口10万対 | 0軒の自治体の割合 | 0軒自治体に住む人の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 内科 | 45,522 | 36.93 | 4.8% | 0.6% |
| 小児科 | 15,078 | 12.23 | 18.1% | 2.1% |
| 消化器内科 | 14,773 | 11.98 | 25.2% | 2.8% |
| 皮膚科 | 10,779 | 8.74 | 35.6% | 5.3% |
| 外科 | 9,969 | 8.09 | 23.9% | 3.9% |
| 整形外科 | 9,753 | 7.91 | 26.1% | 3.1% |
| 眼科 | 6,630 | 5.38 | 38.8% | 5.7% |
| 精神科 | 6,047 | 4.91 | 48.8% | 11.1% |
| 耳鼻いんこう科 | 4,697 | 3.81 | 45.8% | 7.9% |
| 産婦人科 | 3,663 | 2.97 | 53.8% | 13.4% |
| 泌尿器科 | 3,280 | 2.66 | 51.3% | 12.3% |
産婦人科は53.8%、泌尿器科は51.3%、精神科は48.8%の自治体で標榜する診療所が0軒でした。内科の4.8%とは桁が違います。「競合が少ない」を科をまたいで同じ意味で使うと、実態を取り違えることになります。
なぜこうなるか(データで裏取りできる範囲)
- クリニックは人口に比例して分布しています。人口の46.0%を抱える0.8〜1.2倍のバンドに、クリニックの45.3%が入っており、両者がほぼ一致します。人口あたりで見ると規模帯の差が消えるのは、この比例関係の裏返しです。
- 小規模自治体でばらつきが大きくなるのは、分母(人口)が小さいためです。人口1万人の自治体では1軒の増減が人口10万対10軒の動きになります。2万人未満の帯で2.0倍以上と0.5倍未満の両方が増えるのは、この粒度の粗さと整合します。
- 科ごとの「0軒自治体の割合」の差は、全国の総軒数の差とほぼ同じ順序で並びます。軒数が少ない科ほど、1自治体に1軒も置かれない自治体が増えます。
需要側(人口構成の変化)と合わせて読む場合は、「地方は高齢化だから内科は患者が増える」の検算も併せてご覧ください。
言えること・言えないこと
言えること:
- 2025年12月時点の届出実数と2025年推計人口で計算する限り、内科クリニックの人口10万対軒数は人口規模帯によってほとんど変わりません(全国平均比0.99倍〜1.02倍)。
- 規模で違うのはばらつきで、人口2万人未満の帯では75%点と25%点の開きが2.86倍と最も広くなります。
- 標榜する診療所が0軒の自治体の割合は、内科の4.8%から産婦人科の53.8%まで、科によって大きく異なります。
言えないこと:
- 競合密度は市区町村単位の集計であり、実際の診療圏(徒歩・車での到達範囲)とは一致しません。同じ自治体内でも駅前と周辺部では条件が異なります。
- 密度が低いことは、患者が来ることや経営が成り立つことを意味しません。密度は需要の指標ではなく、供給側の軒数の指標です。
- 届出実数は標榜科ベースの計上です。複数科を標榜する診療所は複数の科で数えられるため、科別の軒数を足し上げても施設数にはなりません。診療の実際の中身や規模、診療時間は反映されていません。
- 人口は令和5年推計の中位仮定という1つのシナリオによるもので、届出実数は2025年12月時点の断面です。今後の開設・廃止は反映されていません。
- 政令指定都市の行政区は独立した集計単位として扱っています(ただし浜松市のみ、2024年の区再編で届出と人口推計の区界が対応しないため、市全体を1自治体として集計しています)。区をまたいだ受診行動は考慮していません。
お探しの市区町村の人口動態・競合クリニック密度はエリア別の開業データから確認できます。
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