開業コラム
「高齢化が医療需要を下支えする」を精神科で検算する — 受療率が2023年のままなら、精神科の外来需要は総人口とほぼ同じペースで縮む(2035年 指数94.7・総人口94.6でほぼ同値)
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開業の科を検討するとき、「高齢化が進むのだから医療需要は当面下支えされる」とよく言われます。実際、内科のように高齢層で受療率が跳ね上がる科では、人口が減っても外来需要はしばらく横ばい〜微増で推移します。ではこの「高齢化の下支え」は、すべての科に等しく効くのでしょうか。ここでは精神科(心療内科を含む標榜)を対象に、政府データだけで検算します。意見ではなく、計算の結果を並べます。
計算方法(使うデータは2つだけ)
- 将来人口:国立社会保障・人口問題研究所「令和5年推計(中位仮定)」。全国1,884自治体(政令指定都市20市は親市コードを除き行政区で計上)の5歳階級別人口(2025〜2050年)。
- 受療率:厚生労働省「令和5年(2023年)患者調査」の外来受療率(人口10万対、年齢階級別・全国値)。
外来需要指数は次の定義で計算します。
demand(自治体, 科, 年) = Σ_年齢( その年齢の人口 × その年齢の受療率 ÷ 100,000 ) 指数(年) = demand(年) ÷ demand(2025) × 100(2025年=100)
受療率は2023年の全国値で固定します。つまりこの指数は「人口の増減と年齢構成の変化だけ」を反映した相対値で、患者数の実数予測でも、うつ・不安などの有病率が今後どう動くかの予測でもありません。
結果:精神科の指数は「総人口」とほぼ重なる
全国を合計した指数を、精神科・内科・総人口で並べると差がはっきり出ます。
| 年 | 総人口 | 内科 | 精神科 |
|---|---|---|---|
| 2025 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
| 2030 | 97.4 | 100.7 | 97.7 |
| 2035 | 94.6 | 100.5 | 94.7 |
| 2040 | 91.5 | 99.7 | 91.6 |
| 2050 | 84.9 | 96.8 | 84.8 |
精神科の指数は、どの年でも総人口の指数とほぼ一致します(2035年は精神科94.7・総人口94.6、2050年は精神科84.8・総人口84.9)。一方で内科は2035年まで100を上回り、2040年でも99.7とほぼ横ばいを保ちます。この「内科 − 総人口」の差(2035年で+5.9ポイント)が、高齢化による下支えの大きさです。同じ下支えが、精神科にはほとんど乗っていません。
自治体単位で見ても、精神科は人口の動きをそのままなぞる
全国1,884自治体それぞれで2025→2035年の指数を出し、「需要が増える自治体の割合」と「中央値の指数」を比べます。
| 指標(2035年 対2025年) | 総人口 | 精神科 | 内科 |
|---|---|---|---|
| 需要が増える自治体の割合 | 7.3% | 7.0% | 29.2% |
| 自治体の指数の中央値 | 88.1 | 88.6 | 95.1 |
| 10%超減る自治体の割合 | — | 56.3% | 29.8% |
精神科で需要が増えるのは全国の7.0%の自治体にとどまり、これは総人口が増える自治体の割合(7.3%)とほぼ同じです。中央値も精神科88.6・総人口88.1でほぼ重なります。内科は29.2%の自治体で増え、中央値95.1と明確に上振れします。精神科では全国の56.3%の自治体で外来需要が10%超縮む計算で、内科(29.8%)の約1.9倍にあたります。
人口規模で刻んでも、精神科はどの帯でも100に届かない
自治体を2025年人口で4つの規模帯に分け、2035年の指数を合算すると、精神科は最大都市帯でも100を下回ります。
| 人口規模(自治体数) | 精神科 | 内科 |
|---|---|---|
| 20万人以上(158) | 97.5 | 103.5 |
| 5〜20万人(498) | 94.5 | 100.5 |
| 2〜5万人(401) | 89.4 | 95.3 |
| 2万人未満(827) | 84.9 | 90.7 |
規模が小さいほど指数が下がる勾配は両科に共通です。ただし各帯で精神科は内科より一貫して5〜6ポイント低く、内科が100前後を保つ都市帯(20万人以上・5〜20万人)でも、精神科はそれぞれ97.5・94.5と100に届きません。規模の大きさは精神科の目減りを和らげますが、内科のような「増加」までは押し上げない、という関係です。
なぜこうなるか:受療率が働き盛りで頭打ちになるから
機序は受療率の年齢プロファイルにあります。外来受療率(人口10万対)を年齢で追うと、内科は30代283→50代756→70代後半2,938→90歳以上3,358と、高齢になるほど数倍〜十数倍に上がります。人口が減っても高齢者が増えれば、この急な上り坂が需要を押し上げます。
精神科は違います。30代186→50代258とゆるやかに上がったあと、50代以降はほぼ横ばい(55〜59歳258、90歳以上259)です。受療のピークが働き盛りの年代にあり、高齢層で跳ね上がりません。そのため人口の高齢化は精神科の需要をほとんど押し上げず、需要は総人口の増減をほぼそのまま受け取ります。これは「全年齢型・平坦な受療プロファイルの科ほど人口減に弱い」で示した構造の、はっきりした一例です。
言えること・言えないこと
言えること:受療率を2023年で固定した前提では、精神科の外来需要指数は総人口の減少をほぼそのままなぞり(2035年は精神科94.7・総人口94.6)、内科のような高齢化の下支え(+5.9ポイント)はほとんど効きません。需要が増える自治体は全国の7.0%、10%超縮む自治体は56.3%という分布になります。
言えないこと:この指数は相対的な推移であって、患者数の実数やクリニックの売上・採算の予測ではありません。受療率は全国の2023年値で固定しており、メンタルヘルス受診の広がりや有病率の将来変化、地域差、通院のオンライン化などは反映していません。社人研の中位推計という1つのシナリオに基づく計算です。実際の開業判断では、対象エリアの受療動向や供給体制を個別に確認してください。
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