開業コラム
診療報酬改定にどう備えるか|開業は『価格を自分で決められない事業』だと知っておく
公開日:
事業計画を立てるとき、外来単価は「1人あたり◯円」と固定値で置くのが普通です。しかしこの数字は、自分で決めたものではありません。結論から言うと、保険診療を柱にする開業は「価格を自分で決められない事業」です。単価は公定価格として国が定め、原則2年ごとに改定されます。だから経営で動かせるのは単価そのものではなく、患者数・コスト、そして「何をやるか(どの届出を出すか)」の3つに限られます。この記事では、その構造と備え方を整理します。
単価は「公定価格」——誰がどう決めているか
診療報酬は、保険診療で医療機関が受け取る点数と算定ルールのことで、原則として2年ごと(偶数年度)に見直されます。決まり方には順序があります。まず年末の予算編成の過程で政府が全体の改定率を決め、その枠に収まるように中央社会保険医療協議会で個々の診療行為の点数が設定される、という流れです。
ここで押さえたいのは、公定価格が適用されるのは健康保険を使う診療に限られるということです。保険外の医療サービスは施設ごとに価格を決められます。つまり価格決定権の有無は、保険診療か保険外かで分かれています(保険と自費を同じ疾患で混ぜられない点については、自由診療の記事で別に整理しています)。
直近の改定が示すこと——「全体が上がる」と「自院が上がる」は別
令和8年度(2026年度)の改定では、本体の改定率が+3.09%、全体で+2.22%とされ、本体が3%台となるのは約30年ぶりの水準と報じられました。施行は6月1日です。物価高と人件費の上昇が背景にあるとされます。
数字だけ見ると追い風に見えます。しかし注意が必要です。改定率は全体の総枠であって、個々のクリニックの収入がその率で増えることを意味しません。枠の中でどの診療行為に重点を置くかは中医協の議論で決まるため、自院が実際に行っている診療がどう評価されたかによって、増える院もあれば実質横ばいの院もあります。
効くのは基本診療料より「届出しているかどうか」
では自院にとって何が効くのか。クリニック経営では、初診料・再診料といった基本診療料そのものの増減よりも、加算の再編や新設に対して届出とシステム対応ができているかのほうが大きいとされます。令和8年度改定でいえば、医療DX関連の加算の再編、在宅医療における体制評価の強化、物価対応の項目の新設などが挙げられ、届出や対応状況の違いで月に数万円から十数万円以上の差が生じ得るとされます。
ここから見えるのは、改定が単なる値段の上げ下げではなく、「どういう医療提供体制を評価するか」の設計変更に近いということです。国が評価したい体制に自院を寄せれば算定できる項目が増え、寄せなければ据え置かれる。価格を自分で決められない代わりに、「どの評価軸に乗るか」という限られた操作余地が残されている、という構造です。だから新設・拡充された施設基準は、改定のたびに早めに確認して届け出ることが実務上の要点とされます。
備え方——単価を当てにしない計画と、届出を追う体制
構造が分かれば、備えは2つに絞れます。
| 備え | 具体的にやること |
|---|---|
| 単価を当てにしない計画 | 事業計画の単価は保守的に置き、単価が動いても耐えられるかを確認する。収入の前提を単価より患者数に置く |
| 届出を追う体制 | 改定のたびに、自院が算定できる加算・施設基準が増えていないかを確認し、必要なシステム対応と届出を早めに行う |
前者は計画の作り方の問題です。単価は2年ごとに動く外部要因なので、単価が数%動いても計画が壊れないかを先に確かめておくほうが安全です。費用側の成立ラインの求め方はクリニックの損益分岐点はどう計算する?で、計画全体の組み立てはクリニック開業の事業計画書の作り方で扱っています。
後者は運用の問題です。届出は自動では行われないため、改定の内容を追う担当を決めておかないと、算定できるはずの項目を取り逃します。
まとめ
保険診療を柱にする開業は、価格を自分で決められない事業です。単価は公定価格として原則2年ごとに改定され、令和8年度改定のように全体が引き上げられても、自院の収入が同じ率で増えるとは限りません。効くのは基本診療料の増減より、加算や施設基準に対して届出と対応ができているかどうかです。だから備えは「単価を当てにしない計画」と「届出を追う体制」の2つに絞られます。そして単価が外から与えられる以上、自分の側で動かせる最大の変数は患者数——つまりその場所にどれだけ需要があるかに戻ってきます。候補地の人口・競合・将来推計は公的データから無料で確認でき、単価が動いても揺らぎにくい計画の土台になります。
お探しの市区町村の人口動態・競合クリニック密度はエリア別の開業データから確認できます。
関連するコラム
AI診療圏分析レポートを無料作成
競合クリニックの一覧・年齢構成・AIによる将来性/リスク分析・総合評価を含む詳細レポートを、その場で無料生成できます。営業電話は一切ありません。
AI診療圏分析レポートを作成(無料)※ 本記事は開業検討の参考情報であり、開業の成否を保証するものではありません。出典・参照資料:診療報酬の仕組み(公定価格・原則2年ごとの改定・改定率決定の流れ): 日本経済新聞「診療報酬とは 医療サービスの公定価格、原則2年ごとに改定」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA194Y40Z11C25A2000000/ (2026-07-21取得)。令和8年度(2026年度)改定の改定率・施行日・クリニックへの影響: ウィーメックス メディコム「令和8(2026)年度診療報酬改定の全体像」 https://www.phchd.com/jp/medicom/park/idea/medicalfee-revision /ユヤマ「令和8年度診療報酬改定の要点と対策を開業医向けに徹底解説」 https://www.yuyama.co.jp/column/medicalrecord/revision-of-medical-fees-2026-2/ (いずれも2026-07-21取得)。改定率は全体の総枠であり、個別医療機関の収入増減を示すものではない。加算による収益差の額は条件により異なり結果を保証しない。算定・届出の可否は告示・通知および所轄の地方厚生局で確認を要する。制度は将来変更され得る。