開業コラム
「開業の競合はクリニックの数で数える」を届出実数で検算する — 外来を届け出る施設に占める病院の割合は内科13.0%、泌尿器科45.3%
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開業でよく言われること
開業地を検討するとき、競合は「同じ科のクリニックが何軒あるか」で数えるのが一般的です。診療圏の資料でも、周辺にある診療所の軒数が並びます。
この数え方には、口に出されない前提が1つあります。その地域で外来を担っているのは診療所である、という前提です。実際には病院も外来を行っており、標榜する診療科の届出も出しています。この前提がどこまで成り立つのかを、届出実数だけで数え直して検算します。以下は意見ではなく、数え直した結果です。
計算方法(先に開示します)
使ったデータは2つです。
- 施設数: 厚生労働省「医療情報ネット」の届出実数(2025年12月時点)。診療所と病院を、標榜する診療科ごとに別々に数えています。地図アプリの検索件数ではありません
- 人口: 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」中位仮定の2025年人口。自治体を人口規模帯に分けるためだけに使います
計算する値は1つだけです。
- 病院の割合 = 病院の届出件数 ÷(診療所の届出件数 + 病院の届出件数)
集計単位は、社人研推計の全1,904コードから政令指定都市20市の親コードを除いた1,884自治体を出発点に、次の2つを調整しました。
- 福島県浜通り13市町村は人口推計が合算コードのため届出実数と接続できず、対象外(1件減)
- 浜松市は人口推計が旧7区、届出実数が新3区と単位が異なるため、市単位1件に集約(7件減、1件増)
結果として対象は 1,877自治体、2025年人口は122,841,404人です。
軒数の照合も置いておきます。内科の診療所は集計対象で45,522軒。医療情報ネットの全国の届出は45,680軒で、差の158軒は上記の浜通り分です。この45,522軒は当サイトの他の検算記事と同じ数です。
なお、この記事で扱うのは施設の件数だけです。外来患者数や需要は扱いません。
結果1: 病院の割合は、科によって13.0%から45.3%まで開く
まず全国の合計で、外来を届け出ている施設のうち病院が占める割合を科ごとに出しました。
内訳は次のとおりです。
| 診療科 | 診療所(件) | 病院(件) | 病院の割合 |
|---|---|---|---|
| 泌尿器科 | 3,280 | 2,712 | 45.3% |
| 産婦人科 | 3,663 | 1,834 | 33.4% |
| 整形外科 | 9,753 | 4,568 | 31.9% |
| 精神科・心療内科 | 6,047 | 2,734 | 31.1% |
| 外科 | 9,969 | 4,135 | 29.3% |
| 耳鼻咽喉科 | 4,697 | 1,800 | 27.7% |
| 眼科 | 6,630 | 2,158 | 24.6% |
| 消化器内科 | 14,773 | 3,965 | 21.2% |
| 皮膚科 | 10,779 | 2,863 | 21.0% |
| 小児科 | 15,078 | 2,251 | 13.0% |
| 内科 | 45,522 | 6,803 | 13.0% |
内科で数えると、外来を届け出る施設の13.0%が病院です。クリニックの軒数だけを見ても、施設の9割近くは拾えている計算になります。一方、泌尿器科では45.3%が病院で、診療所の軒数だけを数えると届出施設のおよそ半分が視界から外れます。科による開きは13.0%から45.3%まで、およそ3.5倍ありました。
結果2: 人口規模が小さい自治体ほど、病院の割合は高い方向
次に、自治体を2025年人口で4つの帯に分けました。11科の届出を延べで数えたときの病院の割合です。
| 人口規模帯 | 自治体数 | 平均人口(2025年) | 病院の割合(11科延べ) |
|---|---|---|---|
| 20万人以上 | 157 | 329,049 | 18.9% |
| 5〜20万人 | 493 | 104,409 | 20.9% |
| 2〜5万人 | 400 | 33,048 | 28.7% |
| 2万人未満 | 827 | 7,845 | 32.4% |
なお当サイトでは消化器内科と外科の標榜を重複して算入する設計のため、11科の延べ件数は施設の実数と一致しません。帯どうしの比較にのみ使えます。
科別に開くと、帯による動き方は科で違います。
| 診療科 | 20万人以上 | 5〜20万人 | 2〜5万人 | 2万人未満 |
|---|---|---|---|---|
| 産婦人科 | 27.7% | 32.1% | 48.9% | 68.1% |
| 泌尿器科 | 41.9% | 42.5% | 57.1% | 67.1% |
| 耳鼻咽喉科 | 22.3% | 25.9% | 41.0% | 64.9% |
| 精神科・心療内科 | 25.6% | 30.5% | 53.6% | 55.8% |
| 眼科 | 20.4% | 22.8% | 35.0% | 54.2% |
| 皮膚科 | 16.2% | 20.8% | 37.2% | 43.0% |
| 整形外科 | 28.7% | 31.6% | 38.5% | 42.5% |
| 外科 | 27.7% | 28.3% | 34.4% | 34.4% |
| 消化器内科 | 19.4% | 21.0% | 26.2% | 25.0% |
| 小児科 | 10.8% | 12.3% | 17.4% | 22.1% |
| 内科 | 11.6% | 12.7% | 16.7% | 18.1% |
11科のうち9科では、規模の小さい帯ほど病院の割合が高くなりました。外科は最後の2帯が同水準(ともに34.4%)、消化器内科は最も小さい帯で下がっており(26.2%から25.0%)、例外は2科です。
動き方の大きさも科で違います。内科は11.6%から18.1%までの動きにとどまりますが、耳鼻咽喉科は22.3%から64.9%まで動きます。
結果3: 「クリニックが0軒」の自治体でも、病院が同じ科を届け出ている場合がある
同じデータを、自治体を数える側から見ます。各科について、診療所の届出が0軒の自治体を数え、そのうち病院がその科を届け出ている自治体がいくつあるかを出しました。
| 診療科 | 診療所0軒の自治体 | うち病院が届出あり | その割合 | 病院も0 |
|---|---|---|---|---|
| 内科 | 90 | 44 | 48.9% | 46 |
| 外科 | 447 | 194 | 43.4% | 253 |
| 整形外科 | 489 | 168 | 34.4% | 321 |
| 泌尿器科 | 963 | 328 | 34.1% | 635 |
| 精神科・心療内科 | 916 | 286 | 31.2% | 630 |
| 産婦人科 | 1,010 | 297 | 29.4% | 713 |
| 小児科 | 339 | 97 | 28.6% | 242 |
| 皮膚科 | 667 | 180 | 27.0% | 487 |
| 眼科 | 727 | 193 | 26.5% | 534 |
| 耳鼻咽喉科 | 860 | 219 | 25.5% | 641 |
| 消化器内科 | 473 | 74 | 15.6% | 399 |
内科の診療所が0軒の自治体は1,877のうち90でした。そのうち44自治体(48.9%)では、病院が内科を届け出ています。診療所の軒数だけで数えると「0軒」に見える自治体のうち、およそ半数には内科を届け出た病院があることになります。
この44自治体の2025年人口は平均4,958人、最大でも14,554人でした。病院も0の46自治体は平均3,128人です。届け出られている病院は44自治体で延べ46件です。いずれもごく小規模な自治体の話であり、全国の多くを占める部分ではありません。
割合が最も低いのは消化器内科の15.6%で、この科では診療所0軒の自治体の8割以上は病院の届出もありませんでした。
なぜこうなるのか
データで裏取りできる範囲で、機序は2つに分けられます。
規模帯で割合が動くのは、診療所の密度がほぼ一定で、病院の密度だけが動くからです。 内科で人口100万人あたりの件数を出すと、次のようになります。
| 人口規模帯 | 内科の診療所(人口100万対) | 内科の病院(人口100万対) | 病院が1軒以上ある自治体の割合 |
|---|---|---|---|
| 20万人以上 | 369.0 | 48.5 | 100.0% |
| 5〜20万人 | 371.3 | 53.8 | 99.2% |
| 2〜5万人 | 371.7 | 74.5 | 92.8% |
| 2万人未満 | 375.2 | 83.1 | 46.6% |
内科の診療所の密度は、どの帯でも369.0件から375.2件の範囲に収まります。人口に対しておおむね比例して増減している形です。これに対して病院の密度は48.5件から83.1件へ、およそ1.7倍に上がります。分子だけが動くので、構成比としての病院の割合が小さい帯ほど高く出ます。
ただし、2万人未満の帯で内科の病院が1軒以上あるのは827自治体のうち46.6%です。密度の平均が上がっているのは、病院を持つ一部の自治体に件数が集まっているためで、この帯のすべての自治体に病院があるわけではありません。
科によって割合が違うのは、病院側の届出より診療所側の届出のほうが科による差が大きいからです。 診療所の届出は最多の内科45,522件から最少の泌尿器科3,280件まで13.88倍の開きがあります。一方、病院の届出は最多の内科6,803件から最少の耳鼻咽喉科1,800件まで3.78倍の開きにとどまります。分母側の振れ幅が分子側より大きいため、診療所の届出が少ない科ほど病院の割合が高く出る、という関係になります。
なお、届出は標榜の届出です。その施設でその科の外来がどれだけ行われているかは、このデータからは分かりません。
競合の数え方については「都市部は競合が過密、地方は空いている」を届出実数で検算するで人口あたりの密度を、「競合が少ない街は空いている」を政府データで検算するで1軒あたりの需要を、それぞれ別の角度から扱っています。
この計算で言えること・言えないこと
言えること
- 外来を届け出る施設に占める病院の割合は、全国では内科13.0%、泌尿器科45.3%で、科によっておよそ3.5倍の開きがありました
- 人口規模が小さい帯ほど病院の割合が高い方向で、11科の届出を延べで数えると20万人以上の18.9%に対し2万人未満は32.4%でした。11科中9科で同じ向き、例外は外科(最後の2帯が同水準)と消化器内科(最も小さい帯で低下)の2科です
- 内科の診療所が0軒の90自治体のうち、44自治体(48.9%)では病院が内科を届け出ていました
言えないこと
- ここで数えたのは施設の件数であって、外来患者数ではありません。病院1施設とクリニック1軒の外来の規模は同じではないため、この割合を「病院が外来の何割を担っている」と読み替えることはできません
- 届出は標榜の届出です。その科の常勤医がいるか、毎日その科の外来を開いているか、新規の患者を受けているかは、このデータからは分かりません
- 特定のエリアで開業した場合の患者数や売上を示すものではありません。この記事に将来推計の需要計算は含まれていません
- 届出実数は2025年12月時点の断面です。施設の開設や廃止による変化は反映していません
- 人口は社人研の令和5年推計(中位仮定)の1シナリオです。規模帯の分類にのみ使っています
お探しの市区町村の人口動態・競合クリニック密度はエリア別の開業データから確認できます。
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