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開業コラム

「駅前やオフィス街は競合が過密」を政府データで検算する — 内科の競合密度は流入型の街が流出型の2.11倍、昼間人口で割り直すと0.98倍まで消える

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開業でよく言われること

「駅前やオフィス街は競合が過密。人口10万人あたりのクリニック軒数を見れば、都心ほど密度が高い」。競合の多さを比べるとき、分母には住民登録上の人口(常住人口)を使うのが普通です。

ただし、昼間に人が流入する街では、分母に置いた住民の数と、実際にその時間帯にその街にいる人の数が一致しません。競合密度が高く見える街の一部は、軒数が多いのではなく分母が小さいだけ、という可能性があります。逆に、昼間に人が出ていく住宅地では、密度が低く見えているだけかもしれません。

それがどれくらい起きているのか、昼夜間人口比率と届出実数を突き合わせて数えます。

使ったデータと計算方法

意見ではなく計算です。使ったデータと定義を先に出します。

  • 競合の軒数: 厚生労働省 医療情報ネット(2025年12月時点の届出実数)。診療所のみを数え、病院は含みません。地図サービスの検索件数ではありません。
  • 昼夜間人口比率: 令和2年国勢調査 従業地・通学地による人口・就業状態等集計(総務省統計局)。昼間人口÷夜間人口(常住人口)。1.00を上回れば昼間に人が流入、下回れば流出します。
  • 人口: 国立社会保障・人口問題研究所 令和5年推計(中位仮定)の2025年推計人口。
  • 住民ベースの競合密度 = 軒数 ÷ 2025年推計人口 × 100,000。
  • 昼間人口ベースの競合密度 = 軒数 ÷(2025年推計人口 × 昼夜間人口比率)× 100,000。
  • 集計対象は1,877自治体。社人研推計の全1,904コードから政令指定都市20市の親市コードを除いた1,884自治体を出発点に、福島県浜通りの合算コード(07999)は個別市町村の昼夜間人口比率および届出実数と接続できないため対象外とし、浜松市は人口が旧7区・届出実数が新3区で集計されているため市単位の1件にまとめました。対象人口は122,841,404人、内科の診療所は45,522軒です。
  • 呼び方: 本記事では便宜的に、比率1.20以上を「流入型」、0.90未満を「流出型」と呼びます。この線は集計上の区切りであって、公式の定義ではありません。

分母に使う昼間人口は、2020年の比率が2025年も変わらないと仮定して2025年推計人口に掛けたものです。2025年の昼間人口の実測値ではなく、比較のための目安として使っています。

昼夜間人口比率そのものの全国分布は「オフィス街は昼間の患者が多い」を国勢調査で検算するで数えました。そちらは1,883自治体が対象で、本記事は浜松市を市単位1件にまとめるぶんだけ6件少ない1,877自治体です。流入型の件数(67)は両記事で一致します。

結果

まず内科で、住民ベースの競合密度を昼夜間人口比率の帯ごとに見ます。

住民10万人あたりの内科診療所(昼夜間人口比率の帯別・全国1,877自治体)
基準 37.166.01.20以上38.71.00〜1.2035.60.90〜1.0031.20.90未満

通説どおり、昼間人口が流入する街ほど住民ベースの密度は高く出ます。流入型(67自治体)は住民10万人あたり65.97軒で、流出型(475自治体)の31.23軒の2.11倍です。全国平均は37.06軒でした。

次に、同じ軒数を昼間人口で割り直します。

昼間人口10万人あたりの内科診療所(同じ軒数を昼間人口で割り直し)
基準 37.035.91.20以上37.01.00〜1.2037.30.90〜1.0036.80.90未満

2.11倍あった開きは0.98倍になり、4つの帯はいずれも35.94軒から37.34軒の範囲(最大でも1.04倍)に収まりました。内科に関しては、住民ベースで見えていた密度の勾配は、分母の取り方でほぼ説明がつく範囲だった、という結果です。

昼夜間人口比率自治体数2025年推計人口内科診療所住民10万対昼間人口10万対
1.20以上(流入型)677,479,1734,93465.9735.94
1.00〜1.2055733,772,47013,08338.7437.03
0.90〜1.0077846,281,80716,47735.6037.34
0.90未満(流出型)47535,307,95411,02831.2336.84
合計1,877122,841,40445,52237.0636.97

自治体を1件ずつ見た順位相関でも同じ方向でした。昼夜間人口比率と住民ベースの密度の順位相関は0.178、昼間人口ベースの密度との順位相関は-0.019です。前者もそれほど強い関係ではありませんが、分母を替えるとほぼ消えます。

密度の上位に入る顔ぶれがどれだけ入れ替わるか

住民ベースの密度で上位10%に当たる188自治体を取り出し、昼間人口ベースに置き換えて同じ188枠を作り直すと、27自治体が入れ替わりました。

区分住民ベースの上位10%昼間人口ベースの上位10%
流入型(1.20以上)172
流出型(0.90未満)1833
上位10%の自治体数188188

流入型は全1,877自治体の3.6%(67件)ですが、住民ベースの密度上位10%には17件(9.0%)が入っており、全体構成比の2.5倍の頻度で顔を出します。この17件のうち15件は、昼間人口ベースにすると上位10%から外れました。入れ替わりで新たに上位10%へ入った27件は、すべて比率1.00未満の自治体で、うち15件は0.90未満でした。

科によって、消える差と残る差がある

同じ比較を11科すべてで行うと、内科と同じ結論になる科と、ならない科に分かれます。

診療科住民ベース 流入型÷流出型昼間人口ベース 流入型÷流出型
産婦人科4.692.17
皮膚科4.342.00
精神科4.051.87
泌尿器科3.251.50
眼科2.150.99
内科2.110.98
耳鼻いんこう科1.950.90
外科1.830.84
消化器内科1.740.80
整形外科1.630.75
小児科1.280.59
昼間人口で割り直した競合密度の倍率(流入型÷流出型・11科)
基準 12.2産婦人科2皮膚科1.9精神科1.5泌尿器科1.0眼科1.0内科0.9耳鼻いんこう科0.8外科0.8消化器内科0.8整形外科0.6小児科

11科すべてで、住民ベースの開き(1.28倍〜4.69倍)は昼間人口ベースでは小さくなります。7科では1.00を下回り、昼間にその街にいる人の数で割ると、流入型のほうがむしろ薄いという並びになりました。一方、産婦人科・皮膚科・精神科・泌尿器科の4科では1.50倍〜2.17倍が残ります。

なぜそうなるか

計算の構造上、割り直しは全科に同じ倍率で効きます。流入型67自治体の人口加重平均の比率は1.835、流出型475自治体は0.848なので、両者の分母の開きは2.164倍です。つまり、住民ベースの開きが2.16倍より小さい科では、密度差は昼間人口の差で説明しきれてしまい、大きい科では説明しきれない分が残ります。

内科の住民ベースの開きは2.11倍で、2.16倍をわずかに下回ります。だから昼間人口ベースでは0.98倍になりました。産婦人科の4.69倍は2.16倍の2倍以上あるので、割り直しても2.17倍が残ります。

残る差が何によるものかは、この3つのデータからは判定できません。手元にあるのは人口・受療率・届出実数だけで、患者がどこからどの科へ移動しているかのデータは含まれていないためです。言えるのは、「住民ベースの競合密度が高い」という観察のうち、どこまでが分母の効果でどこからがそれ以外かを、科ごとに切り分けられるという点までです。

競合密度そのものの全国分布と規模帯ごとのばらつきは「都市部は競合が過密、地方は空いている」を届出実数で検算するで扱いました。そちらは1,884自治体を母数とし、浜松市の届出実数が接続できていないため内科は45,211軒・全国密度36.68軒で集計しています。本記事は浜松市を市単位でつなぎ直した45,522軒・37.06軒で、母数と軒数の違いはこの2点によるものです。

言えること・言えないこと

言えること。

  • 内科では、住民10万人あたりの競合密度が流入型で65.97軒、流出型で31.23軒と2.11倍の開きがあるが、昼間人口で割り直すと0.98倍になる(全国1,877自治体・2025年12月時点の届出実数)。
  • 住民ベースの密度上位10%(188自治体)に入る流入型17件のうち、15件は昼間人口ベースでは上位10%から外れる。
  • 11科すべてで住民ベースの開きは昼間人口ベースで縮み、7科では1.00を下回る。産婦人科・皮膚科・精神科・泌尿器科の4科では1.50倍〜2.17倍が残る。

言えないこと。

  • 本記事の昼間人口は、2020年国勢調査の比率を2025年推計人口に掛けた目安であり、2025年の実測値ではありません。比率が変化していれば結果も動きます。
  • 競合密度は軒数と人口の比であって、患者数・診療単価・収益の予測ではありません。1軒あたりの規模や診療体制の違いは反映していません。
  • 届出実数は2025年12月時点の届出に基づく、科ごとの施設数です。本記事の11科を単純に足すと130,191軒になりますが、これは全国の診療所の施設数とは一致しません。科をまたいだ足し算はできないため、科ごとの比較としてお読みください。
  • 昼間人口は自治体全体の集計で、駅前と郊外といった自治体内部の偏りは含みません。同じ自治体でも立地により状況は異なります。
  • 4科に残った差の理由は、このデータからは判定できません。

お探しの市区町村の人口動態・競合クリニック密度はエリア別の開業データから確認できます。

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本記事は開業検討の参考情報であり、開業の成否を保証するものではありません。出典・参照資料:令和2年国勢調査 従業地・通学地による人口・就業状態等集計(総務省統計局) / 社人研R5推計(中位・2025年推計人口) / 厚労省 医療情報ネット(2025-12時点 届出実数)。