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開業コラム

院内処方か院外処方か|『どちらが得か』ではなく、物件を決めた時点でほぼ決まっている

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「院内処方と院外処方、どちらが得か」。開業準備でこの問いに突き当たる医師は多く、たいていは点数と薬価差益の比較として語られます。ただ、実際の開業の順序を追うと、この論点は収益の比較では決着していないことが多いのです。院外処方を選ぶという判断は、近くに薬局が出店してくれて初めて成立します。そして薬局が付くかどうかは、物件を決めた時点でほぼ答えが出ています。

法律上は「院外が原則、院内が例外」という建前になっている

前提を一つ確認しておきます。医師法第22条は、治療上薬剤を投与する必要があると認めた場合には処方箋を交付しなければならないと定めており、薬剤師法第19条も、販売または授与の目的で調剤するのは薬剤師に限るのを原則としています。医師が自ら調剤できるのは、患者本人や看護に当たっている人が「その医師から薬剤の交付を受けたい」と申し出た場合など、条文に列挙された例外に当たるときとされています。

つまり条文の建前では、院外処方が原則で院内処方が例外という順番です。一方、実務はそこまで一方向ではありません。日本薬剤師会の推計では、令和7年度(2025年度)の処方箋受取率(医薬分業率)は82.2%(速報値)とされ、前年度の82.1%からほぼ横ばいです。裏を返せば、2割弱は院外に出ていない計算になります。建前と運用に距離があるぶん「どちらでもよい」と受け取られやすい論点ですが、それは自分で自由に選べる幅が広い、という意味ではありません。

「院外にする」は、自分だけでは決められない

院外処方は、処方箋を受け取る薬局が近くにあって初めて成立します。そして薬局が出店するかどうかを決めるのは薬局側です。薬剤師の人件費と在庫を先に抱える事業なので、その場所で処方箋が月に何枚出そうかという見込みが立たなければ、出店の判断は動きません。見込みを左右するのは標榜科・想定患者数・診療時間といった、こちらの計画そのものです。

ここが見落とされやすいところです。「院外処方でいく」という方針は、他人の出店判断に依存しています。すでに薬局がある通り沿いや、薬局が入っている医療モールでの開業を選ぶなら、この論点は物件選びの段階で片付いています。逆に、薬局のない場所を選んでおいて後から院外に切り替えようとすると、選択肢が自分の手の中にありません。

同じ建物に入れても、内部でつないではいけない

「なら建物の中に薬局を入れてもらえばいい」と考えると、次は構造の規制に当たります。平成28年(2016年)の取扱い変更で、公道に面していることやフェンス設置といった従来の要件は緩和され、同一敷地内の形態も一定の条件下で認められるようになったとされます。

ただし緩和後も、保険薬局と保険医療機関が同一建物内にある場合は、それぞれ別に外部への出入口を設ける必要があるとされ、薬局から医療機関へ内部で行き来できる出入口や通路があると「一体的な構造」とみなされて認められないとされています。これは経営判断ではなく図面の話です。動線を引き終えてから気づくと、内装・設計をやり直すことになります。

院内処方を選ぶと、何が固定費に変わるか

院内処方にすると、薬剤費は売上にも仕入にも立つため額面の医業収入は大きくなりますが、手元に残る差は薬価差益の幅次第です。近年は薬価改定を重ねてその幅が細ってきたとされ、かつてのような収益源として当て込むのは慎重に見るのが一般的です。加えて、発注・在庫・期限切れの廃棄・保管スペースという、患者数と完全には連動しない負担が常時発生します。

点数について一点。これまでの点数表では、院外処方で算定する処方箋料のほうが、院内処方の処方料より医療機関に入る技術料は高く設定されてきました。ただし点数は改定のたびに動き、直近では令和8年度改定が2026年6月1日に施行されています。事業計画に金額の前提を置くときは、必ず現行の点数表で確認してください。

院内処方院外処方
最終的に決めるのは自分薬局の出店判断(自分だけでは決まらない)
事実上固定される時点開業準備の中盤(設備・スペース)物件を決めた時点
開業後に変えられるか院外への切替は比較的しやすい院内への切替は在庫・人員・スペースが要る
継続的に増える負担発注・在庫・廃棄・保管患者の来局の手間(自院の負担は小さい)

表のうち実務で効くのは、下2行より上2行です。費用や点数の差は開業後も調整の余地がありますが、「薬局が付くか」は物件を決めた時点で確定し、後から交渉で覆せません。

では、何を先に決めるか

順番は「処方方針を決めてから場所を探す」ではなく、「場所の候補を絞る段階で、薬局が成立するかを一緒に見る」です。開業場所を選ぶときに、候補地の周辺に既存の薬局があるか、同一建物なら別の出入口を取れる区画かを、物件を押さえる前に確認しておきます。院内処方を前提にするなら、調剤・保管のスペースを設計の初期条件に入れます。

どちらを選んでも間違いではありません。院内処方には、通院の負担が小さい・その場で薬まで完結するという患者側の利点があり、それを強みにしている診療所も少なくありません。決めかねている場合は、両方を残せる物件を選んでおくのが最も安全です。

院内か院外かは、診療方針の選択の顔をしていますが、実態は立地と図面の選択です。収益差を先に計算しても、その前提になる「薬局が付くかどうか」が決まっていなければ、計算は宙に浮きます。先に確かめるべきは点数表ではなく、候補地に薬局が成立するだけの処方箋が出るのかどうか。そしてその土台になる、その場所にどれだけの患者がいて、どれだけの医療機関がすでにあるのかは、公的なデータを使えば費用をかけずに確認できます。

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本記事は開業検討の参考情報であり、開業の成否を保証するものではありません。出典・参照資料:【法令】処方箋交付の原則(医師法第22条)および調剤は薬剤師が行うことを原則とし、患者本人または現に看護に当たっている者から当該医師による薬剤の交付を希望する旨の申し出があった場合等を例外とする定め(薬剤師法第19条ただし書き): 薬剤師法条文 https://hourei.net/law/335AC0000000146 (2026-07-29取得)。条文の適用は個別の事情で解釈が分かれ得ます。 【業界団体の推計(公的統計ではない)】令和7年度(2025年度)の処方箋受取率(医薬分業率)82.2%(全保険・速報値、2026年5月27日公表)、前年度の令和6年度は82.1%: 日本薬剤師会「医薬分業進捗状況(保険調剤の動向)」 https://www.nichiyaku.or.jp/activities/division/faqShinchoku.html (2026-07-29取得。数値は同会公表を報じた二次情報 https://www.dgs-on-line.com/articles/3217 により確認)。同会による推計の速報値であり、確定値で変動し得ます。また全国値であり、都道府県・診療科によって実態は大きく異なります。 【行政通知】保険薬局と保険医療機関の構造上の独立性の取扱い。平成28年3月31日厚生労働省保険局医療課事務連絡「保険薬局の指定について」(平成28年10月1日適用)により、公道に面することやフェンス設置を求める従来の取扱いが見直された一方、同一建物内では保険薬局・保険医療機関それぞれに別の外部への出入口を要し、薬局から医療機関へ内部で行き来できる出入口・通路がある形態は「一体的な構造」として認められないとされること: 同事務連絡 https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/wg/iryou/20161115/161115iryou08.pdf および総務省資料 https://www.soumu.go.jp/main_content/000319591.pdf (2026-07-29取得)。個別の物件が要件を満たすかは地方厚生(支)局の判断によります。 【診療報酬】令和8年度診療報酬改定の施行日が2026年6月1日、診療報酬本体改定率が+3.09%であること: ユヤマ「令和8年度診療報酬改定の要点」 https://www.yuyama.co.jp/column/medicalrecord/revision-of-medical-fees-2026-2/ (2026-07-29取得)。本記事は処方箋料・処方料の具体的な点数を示していません。改定後の点数は現行の診療報酬点数表でご確認ください。 【一般的傾向】薬価改定の積み重ねにより薬価差益の幅が縮小してきたとされる傾向、および院内処方における発注・在庫・廃棄の負担: 開業支援メディアの一般的整理(例: ウィーメックス「メディコム」 https://www.phchd.com/jp/medicom/park/idea/opening-prescription 2026-07-29取得)。MEDLOTの想定を含む定性的な整理であり、個別クリニックの収支を示すものではありません。 本記事の数値・傾向は一般的な目安であり、特定の収益や結果を保証するものではありません。診療報酬・薬価・保険薬局の指定に関する制度は今後変更され得ます。個別の物件が構造上の独立性の要件を満たすか、院内処方の可否をどう整理するかは、所轄の保健所・地方厚生(支)局および税務・法務の専門家にご確認ください。