開業コラム
「高齢化型の科ならまだ需要は伸びる」を政府データで検算する — 外来需要のピーク年は11科すべてで中央値2025年、1,884自治体の63.1%では11科すべてが一致する
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よく言われること
開業の診療科選びでは、「整形外科や泌尿器科は高齢化でこれから伸びる」「小児科や産婦人科はもう縮む局面だ」と語られることがあります。ここから、開業の「賞味期限」は科によって違い、高齢層を多く診る科ならまだ需要が伸びる時間が残っている、という見立てが立つこともあります。
これは検算できます。外来需要がいつ最大になるか(ピーク年)を診療科ごと・自治体ごとに計算すれば、科によってピーク年がどれだけずれるのかが分かります。
計算方法(先に出します)
意見ではなく計算です。使ったデータは2つだけです。
- 将来人口: 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」の中位仮定。全国1,884自治体(政令指定都市20市は親市コードを除き行政区で計上)、5歳階級別、2025年から2050年までの5年刻み6時点。
- 外来受療率: 厚生労働省「令和5年(2023年)患者調査」の外来受療率(人口10万対)、5歳階級別・診療科別(全国値)、11診療科。
計算式は次のとおりです。
- 外来需要 = Σ(年齢階級ごとの人口 × その階級の外来受療率 ÷ 100,000)
- ピーク年 = 6時点(2025・2030・2035・2040・2045・2050年)のうち外来需要が最大になる年。同値の場合は早い年を採用
1,884自治体 × 11診療科 = 20,724通りのピーク年を計算しました。
ここで「2025年ピーク」は、2025年以降は外来需要が2025年の水準を上回らないという意味です。実際のピークが2025年より前だったかどうかは、2025年が推計の起点であるため、このデータでは判定できません。
結果1:どの科でも最も多いのは「2025年ピーク」
11科すべてで、最も多いのは「2025年がピーク」の自治体でした。割合は泌尿器科の64.8%から産婦人科の98.0%まで開きますが、11科すべてで過半数を超え、ピーク年の中央値は11科とも2025年です。
11科 × 6時点の内訳は次のとおりです(単位: %。四捨五入のため合計が100.0にならない行があります)。
| 診療科 | 2025年 | 2030年 | 2035年 | 2040年 | 2045年 | 2050年 | ピーク年の中央値 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 泌尿器科 | 64.8 | 12.3 | 5.6 | 0.9 | 1.6 | 14.8 | 2025年 |
| 内科 | 65.3 | 10.0 | 4.5 | 3.3 | 2.8 | 14.1 | 2025年 |
| 整形外科 | 66.8 | 14.4 | 2.8 | 0.3 | 0.5 | 15.3 | 2025年 |
| 眼科 | 76.3 | 6.3 | 1.4 | 0.3 | 1.8 | 13.9 | 2025年 |
| 消化器内科 | 78.2 | 6.6 | 1.5 | 2.0 | 2.2 | 9.5 | 2025年 |
| 外科 | 87.4 | 4.5 | 1.0 | 0.5 | 1.1 | 5.5 | 2025年 |
| 精神科 | 90.7 | 3.9 | 1.7 | 2.1 | 0.4 | 1.2 | 2025年 |
| 皮膚科 | 92.6 | 1.2 | 1.7 | 1.2 | 1.7 | 1.6 | 2025年 |
| 耳鼻咽喉科 | 96.1 | 0.0 | 0.7 | 1.3 | 1.5 | 0.4 | 2025年 |
| 小児科 | 97.7 | 0.3 | 0.1 | 1.1 | 0.8 | 0.0 | 2025年 |
| 産婦人科 | 98.0 | 0.7 | 0.1 | 1.0 | 0.2 | 0.0 | 2025年 |
自治体ごとではなく全国の需要を合算したベースで見ると、ピーク年が2030年になるのは内科・泌尿器科・整形外科の3科で、残る8科は2025年でした。全国合算で見ても、ピークを2035年以降に持つ科はありません。
内科のみを対象にした以前の検算と同じ計算方法で、対象を11科に広げた結果です。内科の数値(2025年ピーク65.3%、2050年ピーク14.1%)は一致しています。
結果2:科による差は「最後まで伸びる少数派」に出る
「2025年ピーク」の割合が科によって64.8%から98.0%まで開くぶんの差は、主に2050年までピークが来ない自治体がどれだけあるかに現れます。
| 診療科 | 2050年ピークの割合 | 該当する自治体数 |
|---|---|---|
| 整形外科 | 15.3% | 288 |
| 泌尿器科 | 14.8% | 279 |
| 内科 | 14.1% | 266 |
| 眼科 | 13.9% | 261 |
| 消化器内科 | 9.5% | 179 |
| 外科 | 5.5% | 104 |
| 皮膚科 | 1.6% | 30 |
| 精神科 | 1.2% | 23 |
| 耳鼻咽喉科 | 0.4% | 7 |
| 小児科 | 0.0% | 0 |
| 産婦人科 | 0.0% | 0 |
高齢層の比重が高い科ほど、この「最後まで伸びる」自治体の割合が大きくなります。ただしデータ上は、その差が及ぶのは1,884自治体のうち最大でも15.3%(整形外科の288自治体)で、残りの大半は科を問わず2025年ないし2030年にピークを迎える形になっています。
結果3:同じ街で科を変えると、ピーク年は動くか
「賞味期限が科によって違う」が実務上意味を持つのは、同じ街のなかで科を変えたときにピーク年が動く場合です。そこで自治体ごとに、11科のピーク年を並べて比べました。
全国1,884自治体のうち63.1%(1,189自治体)では、11科すべてのピーク年が2025年で一致します。 この場合、データ上は科を変えてもピーク年は動きません。
人口規模帯別の内訳は次のとおりです。「ピーク年の幅」は、その自治体の11科のうち最も遅いピーク年と最も早いピーク年の差(年)の平均です。
| 人口規模帯(2025年推計人口) | 自治体数 | 11科すべて2025年ピーク | 11科のうち1つ以上が2045年以降ピーク | ピーク年の幅(平均・年) |
|---|---|---|---|---|
| 20万人以上 | 158 | 13.9%(22) | 57.6% | 15.5 |
| 5〜20万人 | 498 | 36.1%(180) | 31.9% | 10.1 |
| 2〜5万人 | 401 | 67.1%(269) | 11.0% | 4.3 |
| 2万人未満 | 827 | 86.8%(718) | 3.6% | 1.5 |
| 全国 | 1,884 | 63.1%(1,189) | 17.2% | 5.6 |
データ上は、科による「賞味期限」の違いが出るかどうかは、街の規模帯によって大きく変わる形になっています。2万人未満の自治体では11科のピーク年の幅は平均1.5年で、科を変えてもほぼ動きません。20万人以上では平均15.5年に広がり、57.6%の自治体で11科のうち1つ以上が2045年以降にピークを迎えます。
なぜそうなるか(データで裏取りできる範囲)
ピークが遅い自治体は、人口規模が大きい側に寄っています。内科では、2025年ピークの1,231自治体の2025年人口の中央値が13,594人であるのに対し、2050年ピークの266自治体では128,382人でした。整形外科でも同じ方向で、14,064人と126,901人です。
外来需要は「年齢階級ごとの人口 × 受療率」の合計なので、高齢層の受療率が高い科の需要は、その地域の高齢者の実数が増え続けるあいだは伸びます。高齢者の実数がいつまで増えるかは地域によって違い、規模の小さい自治体ほど総人口の減少が大きく、高齢層の実数も早く減少に転じます。この点は、高齢化率が上がっても高齢者の実数は減る地域があるという以前の検算と同じ向きです。
そのため、高齢層の比重が高い科を選んでも、高齢者の実数が既に減少局面にある自治体では需要のピークは動きません。逆に高齢者の実数が長く増え続ける規模の大きい自治体では、科による年齢プロファイルの違いがピーク年の差として現れます。本記事のデータで確認できるのはここまでで、それ以上の要因(人口移動の内訳など)は検算の範囲外です。
なお、これらは需要側だけの計算です。競合の数は別データ(厚生労働省 医療情報ネットの届出実数)で見る必要があります。
言えること・言えないこと
言えること
- この前提(社人研 令和5年推計・中位仮定、受療率は令和5年患者調査の全国値で固定)では、11科すべてで最も多いのは2025年ピークの自治体で、ピーク年の中央値は11科とも2025年でした。
- 科による差は主に2050年ピークの割合に出ており、0.0%(小児科・産婦人科)から15.3%(整形外科)の範囲でした。
- 全国1,884自治体の63.1%(1,189自治体)では11科すべてのピーク年が2025年で一致し、その範囲ではデータ上、科を変えてもピーク年は動きません。
言えないこと
- ピーク年は外来需要指数という相対値の推移から求めたもので、患者数やクリニックの売上・収益の予測ではありません。
- 「2025年ピーク」は2025年以降に2025年の水準を上回らないという意味であり、実際のピークが2025年より前かどうかは、2025年が推計の起点であるため判定できません。
- 受療率は2023年の全国値で固定しています。将来の受療行動の変化、オンライン診療の普及、地域差は反映していません。
- 中位仮定という1つのシナリオの結果です。仮定が変われば数値も変わります。
- 5年刻み6時点での比較であり、その間の年のピークは判定していません。
- 自治体単位の集計であり、実際の診療圏(隣接自治体からの流入出、昼間人口)とは一致しません。
- 競合の数・分布は本記事の計算に含まれていません。需要側だけで開業地の適否は決まりません。
お探しの市区町村の人口動態・競合クリニック密度はエリア別の開業データから確認できます。
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