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開業コラム

開業医の年収は診療科でいくら違うか|『2,600万円』は給与ではなく損益差額という話

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「開業医 年収」で検索すると、2,600万円前後という数字がよく出てきます。勤務医の平均を大きく上回るこの額を見て、開業に踏み切る後押しにする医師も少なくありません。ただ、結論から言うと、この数字は給与ではありません。開業医の「年収」として語られる金額は、事業の売上から経費を引いた「損益差額」であって、そこからさらに税・社会保険・借入返済を払った残りが、手元に残るお金です。しかも診療科別の平均額は、生き残った医院の結果を平均したもので、同じ科でも立地次第で大きく振れます。

開業医の「年収」とは何か

厚生労働省「医療経済実態調査」では、一般診療所(入院収益なし)の損益差額はおおむね年2,600万円台とされます(第25回・2023年度)。個人立に絞ると、年度によっては3,000万円を超える調査結果もあります。一方、勤務医の年収目安は「賃金構造基本統計調査(令和6年)」で約1,338万円です。

数字だけ並べると開業医が倍近く見えますが、性質が違います。勤務医の年収は「給与所得」で、そこから税・社会保険を引けば手取りが出ます。開業医の損益差額は「事業の利益」で、まだ院長個人の所得税も、借入の返済も引かれていません。同じ土俵の数字ではない、というのが最初の注意点です。

診療科別の損益差額

厚生労働省「医療経済実態調査(第24回・令和3年度)」で、個人立・入院収益なしの一般診療所の損益差額を主たる診療科別に見ると、次のようになります(1施設当たりの年額)。

診療科損益差額(個人・入院なし)
小児科約4,460万円
眼科約3,400万円
外科約3,170万円
内科約2,940万円
整形外科約2,840万円
皮膚科約2,800万円
精神科約2,190万円

全体では約3,140万円です。ただしこの令和3年度の数字には発熱外来やワクチンなどのコロナ関連補助金が含まれ、内科・小児科などは平時より高めに出ている可能性があります。注意したいのは、機器投資や単価の大きい科が必ず上位に来るわけではない点です。損益差額は売上から経費を引いた残りなので、売上が大きくても経費が大きければ手元には残りません。客体数の少ない科は年によって値が大きく振れ、順位も入れ替わります。「単価の高い科=手元に残る額が多い科」とは限らない、ということです。

損益差額から「手取り」への目減り

損益差額をそのまま年収と捉えると、実際に使えるお金を過大に見積もります。ここから引かれるものを、モデル試算として順に見ます(税率・返済額は個人差が大きく、以下は一般的な目安です)。

段階内容
損益差額医業収益 − 人件費・薬剤費・家賃・経費
− 税・社会保険所得税・住民税・国民健康保険等で概ね3〜4割程度
− 借入元本の返済開業融資の元本は経費にも手取りにもならず出ていく
− 設備更新の積立数年後の機器更新に備えた内部留保

特に見落とされやすいのが借入元本の返済です。利息は経費になりますが元本は経費になりません。損益差額の中に含まれているのに、手元には残らない——この二重の目減りを織り込むと、体感の手取りは損益差額よりかなり下がります。

たとえば損益差額が2,600万円でも、税・社会保険で3〜4割が引かれ、そこに開業融資の元本返済が年数百万円単位で乗れば、実際に自由に使えるお金は1,500万円前後まで下がることも珍しくありません(返済額・税率で大きく変わるモデル試算の一例です)。勤務医時代の給与と単純比較する前に、この目減りを計算に入れておく必要があります。経費率や税負担率など医院の費用構造そのものは開業医の手取りはどう決まるかで詳しく整理しています。

平均額が当てにならない理由

最大の注意点は、これらがすべて「開業して事業が回った医院の平均」だということです。開業初年度は患者数が定常に届かず、損益差額が平均を大きく下回る、あるいは赤字になる期間が普通にあります。平均年収は、立ち上がりを乗り越えたあとに、数年遅れて実現する数字です。

そして損益差額は、突き詰めれば「診療単価 × 患者数 − コスト」の写像です。診療科の平均をいくら眺めても、自分の医院の患者数は決まりません。決めるのは、開業予定地にどれだけの需要があり、競合がどれだけいるか——つまり立地です。同じ皮膚科でも、需要の厚い立地と薄い立地では、実現する損益差額はまったく別物になります。

まとめ

開業医の「年収」として語られる2,600万円前後は、給与ではなく事業の損益差額であり、そこから税・社会保険・借入元本返済を引いた残りが実際の手取りです。診療科別の平均は水準感の参考にはなりますが、順位は年度で入れ替わり、何より「生き残った医院の結果論」である点を忘れると、計画を楽観に振ってしまいます。

実現する年収を見積もる近道は、平均額を調べることではなく、自分の予定地でその患者数が見込めるかを確かめることです。そしてその需要と競合は、公的データで無料で確認できます。年収の話は、最後は立地の需要の話に行き着きます。

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本記事は開業検討の参考情報であり、開業の成否を保証するものではありません。出典・参照資料:厚生労働省『医療経済実態調査(第25回・2023年度/第24回・令和3年度)』の一般診療所の損益差額(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa.html、2026-07-24取得)を主たる公的統計として使用。診療科別の値は第24回『一般診療所 主たる診療科別の損益状況』(個人立・入院収益なし・1施設当たり・令和3年度)の実数(内科約2,942万円・小児科約4,459万円・眼科約3,404万円・外科約3,175万円・整形外科約2,837万円・皮膚科約2,805万円・精神科約2,185万円・全体約3,141万円)に基づく。令和3年度はコロナ関連補助金を含み平時より高めに出ている可能性があり、客体数の少ない科は年により変動する。勤務医の年収目安は『賃金構造基本統計調査(令和6年)』(2026-07-24取得)。本文中の手取りへの目減り(税・社会保険で概ね3〜4割、借入元本返済等)は一般的な傾向に基づくモデル試算であり、特定の医院の実収入・成功を保証するものではない。制度・税率・数値は将来変更され得る。