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開業コラム

「科によって伸びる街の規模は違う」を政府データで検算する — 11科すべてで規模が小さいほど需要は縮み、例外は33組中0だった

公開日:

よく言われること

開業の診療科選びでは、「この科は都市型、この科は地方型」「科によって向いている街の規模が違う」と語られることがあります。ここから「自分の科なら、小さな街のほうがむしろ相性がいいのではないか」という見立てが立つこともあります。

これは検算できます。診療科と人口規模を掛け合わせて、10年後の外来需要がどう動くかを見れば、「科ごとに伸びる規模帯が違う」のか、それとも「どの科も同じ方向に動くが水準が違うだけ」なのかが分かります。

計算方法(先に出します)

意見ではなく計算です。使ったデータは2つだけです。

  • 将来人口: 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」の中位仮定。全国1,884自治体(政令指定都市20市は親市コードを除き行政区で計上)、5歳階級別。
  • 外来受療率: 厚生労働省「令和5年(2023年)患者調査」の外来受療率(人口10万対)、5歳階級別・診療科別(全国値)。

計算式は次のとおりです。

  • 外来需要 = Σ(年齢階級ごとの人口 × その階級の外来受療率 ÷ 100,000)
  • 外来需要指数 = 2035年の外来需要 ÷ 2025年の外来需要 × 100(2025年 = 100)

人口規模帯は2025年推計人口で4つに分けました。内訳は次のとおりです。

人口規模帯自治体数2025年人口全国人口に占める割合
20万人以上1585,154万人41.8%
5〜20万人4985,199万人42.2%
2〜5万人4011,324万人10.7%
2万人未満827649万人5.3%

指数は規模帯ごとに自治体の需要を合算してから計算しています(自治体ごとの指数の平均ではありません)。11科 × 4規模帯 = 44通りを計算しました。

結果:並び順は全科で同じだった

まず、規模帯ごとの指数が科によって逆転するか(=小さい街のほうが伸びる科があるか)を確認しました。

隣り合う規模帯を比べた33組(11科 × 3組)のうち、規模が小さいほうが大きいほうを上回った組は0でした。 どの科でも、20万人以上 > 5〜20万人 > 2〜5万人 > 2万人未満の順に並びます。

20万人以上の自治体:2035年の外来需要指数(2025=100)指数
基準 100103.5内科103.4泌尿器科101.8整形外科101眼科100.8消化器内科98.4外科97.5精神科97.3皮膚科95.7耳鼻咽喉科94.2産婦人科91.2小児科
2万人未満の自治体:2035年の外来需要指数(2025=100)指数
基準 10090.7内科90.3泌尿器科90.1整形外科88.5眼科88.2消化器内科86.4外科84.9精神科84.5皮膚科81.8耳鼻咽喉科80.7産婦人科74.3小児科

科の並び順(内科・泌尿器科が上、産婦人科・小児科が下)は、規模帯を変えてもほぼ変わりません。変わるのは全体の高さです。

44通りの内訳は次のとおりです。

診療科20万人以上5〜20万人2〜5万人2万人未満差(最大帯−最小帯, pt)
内科103.5100.595.390.712.8
泌尿器科103.4100.395.190.313.1
整形外科101.898.994.490.111.7
眼科101.097.892.988.512.5
消化器内科100.897.892.788.212.6
外科98.495.490.686.412.0
精神科97.594.589.484.912.6
皮膚科97.394.188.884.512.8
耳鼻咽喉科95.792.286.281.813.9
産婦人科94.290.985.580.713.5
小児科91.287.179.274.316.9

2025年の水準(指数100)を上回る組み合わせは、44通り中7通りでした。

  • 20万人以上帯: 内科・泌尿器科・整形外科・眼科・消化器内科の5科
  • 5〜20万人帯: 内科・泌尿器科の2科
  • 2〜5万人帯・2万人未満帯: 0科

データ上は、「科ごとに伸びる規模帯が違う」というより、「どの科も規模が大きい側ほど指数が高く、100を超えられる規模帯の下限が科によって違う」という形になっています。

なぜこうなるか(データで裏取りできる範囲)

規模帯の差(最大帯−最小帯)は11.7〜13.9ptに集中しており、小児科の16.9ptだけがそこから外れます。つまり規模による目減りの幅は科をまたいでほぼ共通で、科の違いは主に水準(高さ)に出ています。

水準の違いは、受療率の年齢プロファイルで説明できる範囲があります。2025年の全国需要のうち65歳以上が占める割合と、全国ベースの2035年指数を並べると次のようになります。

診療科65歳以上が占める割合(2025年・全国)2035年指数(全国)
泌尿器科67.1%100.2
内科64.2%100.5
整形外科63.4%99.0
眼科61.2%98.0
消化器内科51.7%97.9
外科39.2%95.6
皮膚科31.3%94.4
精神科27.6%94.7
耳鼻咽喉科20.5%92.5
産婦人科8.2%91.3
小児科0.0%87.4

高齢層の比重が高い科ほど指数が高い方向に並びます(精神科と皮膚科のように順序が入れ替わる箇所もあります)。この関係は、全年齢型の科ほど人口減に弱い という以前の検算と同じ向きです。

一方、規模帯の差が科をまたいで似た幅になるのは、規模の小さい自治体ほど総人口の減り方が大きく、その影響がどの年齢層にも及ぶためと読めます。小児科だけ差が大きいのは、需要が0〜14歳に集中しており、小規模自治体で年少人口の減少が相対的に大きく出るためです。ただし本記事のデータで確認できるのはここまでで、それ以上の要因(移動の内訳など)は検算の範囲外です。

なお、これらは需要側だけの計算です。競合の数は別データ(厚生労働省 医療情報ネットの届出実数)で見る必要があり、競合が少ない=有望とは限らない 点は前提として押さえておく必要があります。

言えること・言えないこと

言えること

  • この前提(社人研 令和5年推計・中位仮定、受療率は令和5年患者調査の全国値で固定)では、11科すべてで人口規模が大きい帯ほど2035年の外来需要指数が高く、逆転は44通り中0でした。
  • 2025年の水準を上回る組み合わせは44通り中7通りで、5〜20万人帯まで100以上を保つのは内科と泌尿器科の2科でした。

言えないこと

  • 指数は2025年を100とした相対値であり、患者数やクリニックの売上・収益の予測ではありません。
  • 受療率は2023年の全国値で固定しています。将来の受療行動の変化、オンライン診療の普及、地域差は反映していません。
  • 中位仮定という1つのシナリオの結果です。仮定が変われば数値も変わります。
  • 規模帯は自治体単位の集計であり、実際の診療圏(隣接自治体からの流入出、昼間人口)とは一致しません。
  • 競合の数・分布は本記事の計算に含まれていません。需要側だけで開業地の適否は決まりません。

お探しの市区町村の人口動態・競合クリニック密度はエリア別の開業データから確認できます。

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本記事は開業検討の参考情報であり、開業の成否を保証するものではありません。出典・参照資料:社人研R5推計(中位) / 令和5年患者調査。