開業コラム
「2035年まで需要が持てば十分」を2050年まで伸ばして検算する — 内科の全国指数は2050年でも96.8、しかし自治体の中央値は81.3、規模帯の差は12.8ptから33.1ptへ開く
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よく言われること
開業の診療圏を検討するとき、将来推計は「2035年まで」「2040年まで」で切られることが多くあります。10年先まで需要が落ちない場所なら十分だ、という見立てです。一方で、開業は借入の返済期間だけでも15〜20年、院長として診療を続ける期間としては30年に及ぶこともあります。
では、同じ推計を2050年まで伸ばすと、10年後の地図はそのまま伸びるのでしょうか。これは検算できます。
計算方法(先に出します)
意見ではなく計算です。使ったデータは2つだけです。
- 将来人口: 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」の中位仮定。全国1,884自治体(政令指定都市20市は親市コードを除き行政区で計上)、5歳階級別。収録されているのは2025年から2050年までの5年刻み6時点です。
- 外来受療率: 厚生労働省「令和5年(2023年)患者調査」の外来受療率(人口10万対)、5歳階級別・診療科別(全国値)。
計算式は次のとおりです。
- 外来需要 = Σ(年齢階級ごとの人口 × その階級の外来受療率 ÷ 100,000)
- 外来需要指数 = 各年の外来需要 ÷ 2025年の外来需要 × 100(2025年 = 100)
受療率は2023年の全国値で固定しています。全国値や規模帯の値は、自治体の需要を合算してから指数にしています(自治体ごとの指数の平均ではありません)。指数100以上といった閾値の判定は、丸める前の値で行いました。
結果:全国合計は横ばい、自治体の中央値は落ちる
内科の外来需要指数を2050年まで伸ばすと、全国合計では次のようになります。
2030年の100.7がピークで、2050年でも96.8です。25年かけて3.2ポイントの低下にとどまります。同じ期間の総人口は123,262,450人から104,686,386人へ、指数では84.9まで下がるので、高齢化が人口減をかなり打ち消している形です。
ところが、自治体を1つずつ数えると景色が変わります。
| 内科 | 2035年 | 2040年 | 2050年 |
|---|---|---|---|
| 全国合計の指数 | 100.5 | 99.7 | 96.8 |
| 自治体ごとの指数の中央値 | 95.1 | 91.1 | 81.3 |
| 指数100以上の自治体数(1,884中) | 551 | 486 | 398 |
| 同・割合 | 29.2% | 25.8% | 21.1% |
2050年には、全国合計(96.8)と自治体の中央値(81.3)の差が15.5ポイントに開きます。
11科で見ても方向は同じです。
| 診療科 | 2035年 | 2040年 | 2050年 | 指数100以上の自治体数(2035年) | 同(2050年) |
|---|---|---|---|---|---|
| 内科 | 100.5 | 99.7 | 96.8 | 551 | 398 |
| 泌尿器科 | 100.2 | 98.8 | 96.0 | 525 | 378 |
| 整形外科 | 99.0 | 97.1 | 95.0 | 426 | 347 |
| 眼科 | 98.0 | 96.4 | 93.8 | 356 | 316 |
| 消化器内科 | 97.9 | 96.1 | 92.0 | 346 | 266 |
| 外科 | 95.6 | 92.9 | 88.0 | 182 | 149 |
| 精神科 | 94.7 | 91.6 | 84.8 | 132 | 67 |
| 皮膚科 | 94.4 | 91.3 | 85.3 | 125 | 85 |
| 耳鼻咽喉科 | 92.5 | 89.4 | 82.5 | 72 | 46 |
| 産婦人科 | 91.3 | 87.3 | 78.8 | 28 | 14 |
| 小児科 | 87.4 | 85.3 | 77.1 | 29 | 16 |
11科のうち、指数100以上の自治体数が途中で増えるのは小児科だけです(2035年29 → 2040年34 → 2050年16)。ただし全国合計の指数は87.4 → 85.3 → 77.1と下がり続けているので、これは総量の回復ではなく、100の境界付近にある自治体の入れ替わりとして読むべき数字です。
規模帯で見ると、時間を伸ばすほど差が開く
内科を人口規模帯(2025年推計人口)で分けると、差の広がり方がはっきりします。
| 人口規模帯 | 自治体数 | 2035年 | 2040年 | 2050年 |
|---|---|---|---|---|
| 20万人以上 | 158 | 103.5 | 104.5 | 105.0 |
| 5〜20万人 | 498 | 100.5 | 99.8 | 96.8 |
| 2〜5万人 | 401 | 95.3 | 91.7 | 82.9 |
| 2万人未満 | 827 | 90.7 | 84.8 | 71.9 |
| 差(最大帯−最小帯) | — | 12.8pt | 19.7pt | 33.1pt |
20万人以上の帯は2050年に向けて指数が上がり続け(103.5 → 104.5 → 105.0)、2万人未満の帯は下がり続けます(90.7 → 84.8 → 71.9)。2035年で切ると帯の差は12.8ポイントですが、2050年まで伸ばすと33.1ポイントになります。この規模の勾配そのものは「科によって伸びる街の規模は違う」を政府データで検算するで2035年時点を扱いましたが、時間軸を伸ばすと勾配は緩まず、むしろ急になります。
「2035年に需要が維持される」という判定が、2050年にも成り立つとは限りません。内科で2035年に指数100以上だった551自治体のうち、2050年も100以上なのは397(72.1%)でした。逆に2035年に100未満で2050年に100以上へ転じた自治体は1つです。
| 人口規模帯 | 2035年に指数100以上 | うち2050年も100以上 | 2035→2050の指数低下幅(中央値) |
|---|---|---|---|
| 20万人以上 | 124 | 104 | −1.5pt |
| 5〜20万人 | 272 | 189 | 4.1pt |
| 2〜5万人 | 92 | 63 | 13.5pt |
| 2万人未満 | 63 | 41 | 20.8pt |
低下幅は、自治体ごとの「2035年指数 − 2050年指数」の中央値です。負の値は、その15年で指数が上がることを意味します。
2035年の判定から外れた154自治体のうち、83は5〜20万人帯でした。件数としていちばん動くのは、最小の帯ではなく中間の帯です。
なぜそうなるか(データで裏取りできる範囲)
2つの機序が確認できます。
1つ目は、全国合計が需要量の大きい自治体に引っ張られること。 内科の外来需要に占める20万人以上帯の割合は、2025年39.6%、2035年40.8%、2050年42.9%と上がります。2万人未満帯は6.3% → 5.7% → 4.7%です。全国合計の指数はこの重みで決まるので、需要量の小さい自治体がどれだけ縮んでも全国値はあまり動きません。一方、自治体を1票ずつ数える中央値には、827ある2万人未満の自治体が効きます。
2つ目は、需要のピーク年が規模帯で違うこと。 内科の外来需要が最大になる年を自治体ごとに調べると、次のようになります。
| 人口規模帯 | ピークが2025年の自治体の割合 | ピーク年の中央値 |
|---|---|---|
| 20万人以上 | 14.6% | 2045年 |
| 5〜20万人 | 39.0% | 2030年 |
| 2〜5万人 | 69.3% | 2025年 |
| 2万人未満 | 89.0% | 2025年 |
規模の小さい自治体ほどピークが早く、その後の下り坂が長くなります。2035年で切ると下り坂の途中までしか見えず、2050年まで伸ばすと差が積み上がります。全国では65.3%の自治体が2025年ピークで、この分布は「高齢化が進むこれからは開業しても患者は増える」を政府データで検算するで扱った値と一致します。
なお、自治体ごとの2035年指数と2050年指数の相関は内科で0.980、11科では0.962〜0.992でした。順位はほとんど入れ替わりません。時間軸を伸ばして変わるのは「どこが上位か」ではなく「上位の水準がどれだけ100から離れるか」です。
言えること・言えないこと
- 言えること:この前提では、2035年の指数と2050年の指数は自治体単位で強く相関し(内科0.980)、地域の相対的な並び順はほとんど変わりません。変わるのは水準で、内科の全国合計は100.5 → 96.8にとどまる一方、自治体ごとの中央値は95.1 → 81.3、規模帯の差は12.8ptから33.1ptに開きます。
- 言えること:2035年に「需要維持」と判定される内科551自治体のうち、2050年も維持されるのは397(72.1%)です。同じ判定が15年後も成り立つとは限りません。
- 言えないこと:指数は2025年を100とした相対値であって、患者数やクリニックの売上の予測ではありません。
- 言えないこと:受療率は2023年の全国値で固定しており、将来の変化は反映していません。地域ごとの受療率の差も入らないため、自治体間の違いは年齢構成の違いだけを表します。
- 言えないこと:社人研の中位仮定という1つのシナリオの結果です。出生・死亡・移動の仮定が変われば数値は変わります。2050年は2035年より仮定を重ねる期間が長い分、幅も大きくなります。
- 言えないこと:競合の数や医療提供体制はこの計算に含まれていません。需要が維持される地域が開業に適しているかどうかを、この指数だけで判断することはできません。
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