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開業コラム

「これから伸びる診療科はどれか」を政府データで検算する — 同じ街で科を変えて動く幅は中央値10.3ポイント、同じ科で街を変えると19.3〜28.3ポイント

公開日:

通説:「これから伸びる診療科・縮む診療科がある」

開業の検討でよく出てくる整理です。高齢化で伸びる科があり、少子化で縮む科がある。だから科の将来性をまず調べるべきだ、という話の流れ。実際、診療科ごとの将来推計は数多く出ています。

ただ、この整理には前提が1つ隠れています。「科の違い」が「場所の違い」より大きいという前提です。もし同じ科でも街によって将来の姿がまったく違うなら、科単位の平均値を見て判断するのは順序が逆になります。

ここでは意見ではなく計算で確かめます。全国の市区町村1件ずつ、11の診療科すべてについて10年後の外来需要指数を出し、「科を変えたときに動く幅」と「街を変えたときに動く幅」を同じ物差しで比べます。

計算方法(先に出します)

使ったデータと定義です。

  • 将来人口:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」の中位仮定。5歳階級別(0-4歳から90歳以上まで)。
  • 外来受療率:厚生労働省「令和5年患者調査」の診療科別・外来受療率(人口10万対・全国値)。11診療科。年齢階級別で、全自治体に同じ値を当てます。
  • 外来需要:demand(自治体, 科, 年) = Σ_年齢階級( 人口 × 受療率 ÷ 100,000 )
  • 外来需要指数:指数(2035年) = demand(2035) ÷ demand(2025) × 100(2025年 = 100)
  • 対象は1,884自治体(社人研 令和5年推計の全1,904コードから、政令指定都市20市の親市コードを除外し、行政区で計上した数)。1,884自治体 × 11科 = 20,724通りの指数を計算しています。

「動く幅」の測り方は、両方の軸で揃えます。上下10%を落としたレンジ(上位10%の値から下位10%の値を引いた差)を使い、極端な値に引きずられないようにしました。

  • 科を変えて動く幅:自治体を1つ固定し、その街の11科の指数のレンジを出す。これを1,884自治体分つくり、中央値を見る。
  • 街を変えて動く幅:科を1つ固定し、その科の1,884自治体の指数のレンジを出す。これを11科分つくる。

同じ処理を両側にかけていますが、選べる数は科が11、自治体が1,884で揃いません。この差は最後まで残るので、幅の大小をそのまま「どちらが重要か」には読み替えないでください。参考として、上下10%を落とさない全レンジ(最大−最小)も併記します。

結果1:科を変えて動く幅より、街を変えて動く幅のほうが大きい

まず全国計の指数です。これが「科の将来性」としてよく引かれる数字にあたります。

診療科2035年の外来需要指数(全国計)
内科100.5
泌尿器科100.2
整形外科99.0
眼科98.0
消化器内科97.9
外科95.6
精神科94.7
皮膚科94.4
耳鼻咽喉科92.5
産婦人科91.3
小児科87.4

最も高い内科と最も低い小児科の差は13.0ポイントです(丸め前の生値で100.48と87.44)。11科がこの13ポイントの帯に収まっている、というのが全国平均で見たときの科の差です。

次に、街を1つ固定して11科の指数を並べた場合。上下10%を落としたレンジの中央値は10.3ポイントでした(下位25%が8.2、上位25%が12.6)。上下を落とさない全レンジ(最も高い科と最も低い科の差)で見ても中央値16.7ポイントです。

一方、科を1つ固定して1,884自治体を並べた場合。上下10%を落としたレンジは、11科すべてで19.3ポイント以上ありました。

2035年外来需要指数が動く幅(上下10%を除いたレンジ)ポイント
10.3同じ街で科を変える(中央値)19.3同じ科で街を変える(外科)21.5同じ科で街を変える(内科)28.3同じ科で街を変える(小児科)
診療科自治体間レンジ(上下10%除く)自治体間の全レンジ最小中央値最大
小児科28.362.247.478.3109.7
泌尿器科22.156.065.194.9121.1
産婦人科21.548.655.784.7104.3
内科21.553.266.095.1119.2
耳鼻咽喉科21.244.562.785.4107.1
眼科20.852.065.692.7117.6
消化器内科20.651.164.492.2115.5
整形外科20.654.265.994.3120.1
皮膚科19.947.462.488.0109.8
精神科19.946.562.588.6109.0
外科19.347.564.490.0111.9

内科の21.5ポイントを、科側の10.3ポイントと比べると2.09倍です。上下10%を落とさない全レンジで見ると、科側の中央値16.7ポイントに対し、自治体側は44.5ポイント(耳鼻咽喉科)から62.2ポイント(小児科)でした。

ただし、これは中央値どうしの比較です。街ごとに見ると、11科の全レンジが内科の自治体間レンジ21.5ポイントを上回る自治体も426件(22.6%)ありました。科の差が街の差より大きく出る自治体は、この前提では2割強という数え方になります。

結果2:街が決まると、11科はまとめて上下する

なぜ街のほうが幅が大きく出るのかは、科どうしの動きを見ると分かります。内科の指数で1,884自治体を10等分し、上位10%のグループと下位10%のグループで各科の中央値を比べたものです。

診療科内科指数が上位10%の街内科指数が下位10%の街差(表示値)内科指数との相関
内科108.380.827.51.000
泌尿器科109.080.228.80.997
消化器内科105.079.125.90.995
眼科105.979.426.50.993
整形外科107.180.526.60.991
外科102.178.323.80.979
皮膚科100.676.524.10.964
精神科100.776.923.80.957
耳鼻咽喉科98.874.224.60.925
産婦人科96.872.424.40.886
小児科94.366.627.70.789

11科すべてが同じ方向に動いています。内科指数との相関は最も低い小児科でも0.789、内科を除く上位4科(泌尿器科・消化器内科・眼科・整形外科)は0.99台です。街が変わると、特定の科だけが上下するのではなく、11科の水準がそろって持ち上がる、あるいはそろって下がる形になります。

科の並び順のほうは、街を変えてもあまり動きません。1,884自治体それぞれで11科を指数の高い順に並べたとき、最上位に来るのは内科が1,052件(55.8%)、泌尿器科が506件(26.9%)、整形外科が283件(15.0%)で、この3科で1,841件(97.7%)を占めます。最下位は小児科が1,725件(91.6%)、産婦人科が140件(7.4%)で、2科で1,865件(99.0%)です。

結果3:7割の自治体では、11科すべてが100未満

指数100以上、つまり10年後も2025年の水準を下回らない科がその街にいくつあるかを数えました。

100以上の科の数自治体数割合
0科1,32170.1%
1〜4科22612.0%
5科1538.1%
6〜10科1658.8%
11科すべて191.0%

1,321自治体(70.1%)では、11科のどれを選んでも2035年指数が100を下回ります。逆に11科すべてが100以上の自治体は19件(1.0%)でした。

100以上の科がちょうど5科の自治体が153件と多いのは、内訳を見ると理由がはっきりします。この153件はすべて、内科・泌尿器科・整形外科・眼科・消化器内科という同じ5科の組み合わせでした。1科だけの45件のうち35件は内科のみ、2科の91件のうち89件は内科と泌尿器科です。全国順位の上の科から順に積み上がっていて、街ごとに違う科が顔を出すわけではない、という形になっています。

人口規模帯で分けると次のとおりです。

11科すべてが2035年に指数100未満の自治体の割合%
20.920万人以上44.85〜20万人76.62〜5万人91.72万人未満
人口規模帯(2025年)自治体数11科すべて100未満割合11科すべて100以上
20万人以上1583320.9%12
5〜20万人49822344.8%5
2〜5万人40130776.6%2
2万人未満82775891.7%0
合計1,8841,32170.1%19

人口20万人以上の市区でも、5件に1件は11科すべてが100未満です。2万人未満では9割を超えます。

なぜそうなるか:科の差は全国共通、街の差は年齢構成そのもの

機序はこの計算の作りから追えます。

受療率は令和5年患者調査の全国値を全自治体に同じように当てています。したがって科どうしの差は「年齢プロファイルの形の差」だけで、その形は全国どこでも同じです。小児科なら0-4歳の受療率が人口10万対6,326.2と突出し、内科なら90歳以上が3,358で最も高い。この形の違いが、全国計で13.0ポイントの帯をつくっています。

一方、自治体どうしの差として残るのは年齢構成だけです。そして年齢構成は科を選んで効くものではありません。高齢層が厚く若年層が薄い街では、高齢層に効く科は押し上げられ、若年層に効く科は押し下げられます。逆の街では逆になります。この押し引きが11科すべてに同時にかかるため、結果2で見たように水準がまとめて動きます。

結果として、科の選択は「全国共通の13ポイントの帯の中で、どの位置に乗るか」を決め、街の選択は「帯ごとどこに置くか」を決める形になります。この前提では、後者のほうが振れ幅が大きく出ました。

科ごとに年齢プロファイルがどれだけ違うかは10年後も需要が残る科・縮む科の比較で、地域差が県の単位でどこまで語れるかは同じ県内でも需要はどれだけ割れるかで、それぞれ同じ方法で計算しています。

言えること・言えないこと

言えること(この前提の範囲で):

  • 社人研 令和5年推計(中位仮定)と令和5年患者調査の受療率を使うと、1,884自治体 × 11科の2035年外来需要指数のうち、同じ街で科を変えて動く幅は中央値10.3ポイント、同じ科で街を変えて動く幅は19.3ポイント(外科)から28.3ポイント(小児科)。いずれも上下10%を落としたレンジ。
  • 内科の自治体間レンジ21.5ポイントは、科側の中央値10.3ポイントの2.09倍。ただし科側の全レンジがこの21.5ポイントを上回る自治体も426件(22.6%)ある。
  • 11科の指数は自治体単位で同じ方向に動く。内科指数との相関は0.789(小児科)から0.997(泌尿器科)。
  • 1,884自治体のうち1,321件(70.1%)では11科すべてが2035年指数100未満、19件(1.0%)では11科すべてが100以上。

言えないこと:

  • 指数は2025年を100とした相対値です。患者数の実数予測でも、クリニックの売上予測でもありません。
  • この計算では受療率を2023年の全国値で固定しているため、自治体間の差として現れるのは年齢構成だけです。地域ごとの受療行動、医療提供体制、患者の流出入は反映していません。「街のほうが幅が大きい」という結果は、それらを含まない前提での話です。
  • 科は11、自治体は1,884で、選べる数が違います。上下10%を落とす処理を両側に同じくかけていますが、選択肢の数の差までは補正していません。
  • 診療科の選択は専門性や研修歴に規定されるもので、需要指数だけで比較できるものではありません。ここで比べたのは指数の振れ幅のみです。
  • 社人研の中位仮定という1つのシナリオの計算です。仮定が変われば結果も変わります。
  • 自治体単位の集計値です。実際の診療圏は行政区画と一致しません。

お探しの市区町村の人口動態・競合クリニック密度はエリア別の開業データから確認できます。

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本記事は開業検討の参考情報であり、開業の成否を保証するものではありません。出典・参照資料:社人研R5推計(中位) / 令和5年患者調査。