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開業コラム

「産婦人科は都市部なら需要が残る」を政府データで検算する — 2035年に2025年を上回るのは1,884自治体のうち28、20万人以上の市区でも9.5%

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通説:「少子化で産婦人科は厳しい。ただし人が集まる都市部なら残る」

開業の検討でよく聞く整理です。出生数が減るのだから地方の産婦人科は縮む、けれども人口が集中する都市部であれば診療圏は保たれる、という見立て。前半を否定する人はあまりいませんが、後半の「都市部なら残る」が実際にどれだけの数の自治体で成り立つのかは、あまり数で示されません。

ここでは意見ではなく計算で確かめます。全国の市区町村を1件ずつ計算し、10年後に外来需要が2025年を下回らない自治体が何件あり、それがどこに集まっているかを数えます。

計算方法(先に出します)

使ったデータと定義です。

  • 将来人口:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」の中位仮定。5歳階級別(0-4歳から90歳以上まで)。
  • 外来受療率:厚生労働省「令和5年患者調査」の産婦人科・外来受療率(人口10万対・全国値)。年齢階級別で、全自治体に同じ値を当てます。
  • 外来需要:demand(自治体, 年) = Σ_年齢階級( 人口 × 受療率 ÷ 100,000 )
  • 外来需要指数:指数(2035年) = demand(2035) ÷ demand(2025) × 100(2025年 = 100)
  • 対象は1,884自治体(社人研 令和5年推計の全1,904コードから、政令指定都市20市の親市コードを除外し、行政区で計上した数)。

前提として断っておくことが2つあります。1つは、患者調査の受療率は男女別に分けられないため、女性人口ではなく総人口に全国共通の受療率をかけていること。地域ごとの性比の違いは反映されません。もう1つは、この指数が相対値であって、患者数の予測ではないことです。受療率が全国一律である以上、ここで動いているのは人口の年齢構成だけです。

なお、記事の後半で使う競合の軒数だけは母数が1,877自治体になります(理由は該当箇所に書きます)。

結果:2035年に2025年を上回るのは1,884自治体のうち28

全国計では、産婦人科の外来需要指数は2035年に91.3、2040年に87.3でした(2025年 = 100)。同じ期間の総人口指数は2035年に94.6なので、データ上は総人口より速く縮む方向です。

自治体別に見ると、2035年指数の中央値は84.7、下位10%が73.5、上位10%が95.0、最小55.7、最大104.3。指数が100以上、つまり10年後も2025年の水準を下回らない自治体は28件(1.5%)でした。指数80未満は604件です。

「100以上」という線は厳しめなので、線を緩めた数も出しておきます。指数95以上は188件(10.0%)、90以上は545件(28.9%)。線を10ポイント緩めても、7割の自治体はそこに届きません。

人口規模帯で見る

産婦人科の2035年外来需要指数の中央値(2025=100)指数
基準 10093.320万人以上90.45〜20万人84.32〜5万人78.62万人未満
人口規模帯(2025年)自治体数2035年指数の中央値指数100以上割合
20万人以上15893.3159.5%
5〜20万人49890.491.8%
2〜5万人40184.320.5%
2万人未満82778.620.2%
合計1,88484.7281.5%

通説の後半「都市部なら残る」は、方向としてはデータと整合します。指数100以上の割合は20万人以上の市区で9.5%(158件中15件)、2万人未満で0.2%(827件中2件)。割合どうしの比を取ると39.3倍の開きです。ただし絶対水準で見ると、20万人以上の市区でも中央値は93.3で、90.5%は10年後に需要が減る側になります。「都市部なら残る」ではなく「都市部でも残るのは1割弱」というのが、この前提での計算結果です。

28自治体はどこにあるか

指数100以上の28自治体の所在です。

都道府県該当数
東京都12
神奈川県4
茨城県2
埼玉県2
大阪府2
福岡県2
千葉県1
石川県1
愛知県1
沖縄県1
合計28

東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・愛知県・大阪府の6都府県で22件、28件の78.6%を占めます。人口5万人以上の自治体が24件(85.7%)。東京都の12件はすべて特別区で、23区のうち12区が該当しました。

一方、都道府県単位で合計してから指数を出すと、47都道府県すべてが100未満です。最も高い東京都で98.5、最も低い青森県で80.8。県の合計では、産婦人科の需要が2025年を上回る県はこの前提では出てきません。「残る」に該当するのは県ではなく、県内の一部の市区という粒度です。

「残る」と「空いている」は別

需要が残る自治体が競合の少ない自治体かどうかは、別のデータで確かめられます。厚生労働省 医療情報ネットの届出実数(2025年12月時点)で、産婦人科を届け出ている診療所の軒数を見ます。

ここだけ母数が1,877自治体になります。1,884から、福島県浜通り13市町村の人口合算コード(届出側と接続できない)を除き、浜松市の人口が旧7区・届出が新3区で粒度が違うため市単位1件に集約した結果です。

  • 全国(1,877自治体):産婦人科の診療所 3,663軒、人口10万対 2.98軒。届出が0軒の自治体は1,010件(53.8%)。
  • 指数100以上の28自治体:合計 423軒、人口10万対 8.07軒。全国の2.71倍の密度です。届出が0軒なのは3件でした。

需要が2025年の水準を保つと計算された自治体は、データ上、すでに供給も厚い自治体と重なっています。「需要が残る」ことと「参入余地がある」ことは、この2つのデータでは別の話として出てきます。

なぜそうなるか:産婦人科の需要は高齢化で押し戻されない

機序は受療率の年齢プロファイルで説明がつきます。令和5年患者調査で産婦人科の外来受療率が最も高いのは30〜34歳(人口10万対261)で、そこから上の年齢では下がります。この形をそのまま2025年の人口にかけると、需要の年齢構成は次のようになります。

年齢層2025年の産婦人科需要に占める割合2035年の人口指数(2025=100)
0〜14歳0.4%85.8
15〜19歳2.0%85.2
20〜49歳68.1%90.3
50〜64歳21.3%96.0
65歳以上8.2%103.3
(参考)総人口94.6
年齢層別の2035年人口指数(2025=100)指数
基準 10085.80〜14歳90.320〜49歳9650〜64歳103.365歳以上94.6総人口

産婦人科の需要の68.1%は20〜49歳が占め、65歳以上は8.2%にとどまります。上の表の5つの年齢層のうち、2035年に2025年を上回るのは65歳以上(指数103.3)だけです。高齢層の受療率が高い科では、この層が需要の下支えになります。産婦人科ではその層の寄与が8.2%と小さいため、下支えが効きにくい形になっています。

そして、需要の大半を占める20〜49歳の人口指数は90.3で、総人口の94.6より低い水準です。この年齢層の減り方が総人口より速いことが、産婦人科の全国指数91.3が総人口指数94.6を下回る理由です。

ここで補足すると、「少子化だから産婦人科が縮む」という説明は、機序としては少しずれます。0〜14歳が需要に占める割合は0.4%なので、子どもの数そのものが直接効いているわけではありません。効いているのは、過去の出生数減が20〜49歳の層に移ってきていることです。同じ「少子化」でも、小児科の外来需要は0〜14歳の人口がそのまま効くのに対し、産婦人科は一世代ずれた層で効く、という違いがあります。

科ごとに年齢プロファイルが違うと結果がどれだけ変わるかは、10年後も需要が残る科・縮む科の比較でも同じ方法で計算しています。

言えること・言えないこと

言えること(この前提の範囲で):

  • 社人研 令和5年推計(中位仮定)と令和5年患者調査の受療率を使うと、産婦人科の外来需要指数は2035年に全国計91.3、自治体別の中央値84.7。
  • 2035年指数が100以上の自治体は1,884のうち28件(1.5%)で、うち22件(78.6%)が東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・愛知県・大阪府の6都府県に集まっている。
  • 人口20万人以上の市区に限っても、指数100以上は158件中15件(9.5%)。
  • その28自治体の産婦人科診療所の密度は人口10万対8.07軒で、全国(1,877自治体)の2.98軒の2.71倍。

言えないこと:

  • 指数は2025年を100とした相対値です。患者数の実数予測でも、クリニックの売上予測でもありません。
  • 受療率は2023年の全国値で固定しています。将来の受療行動の変化、診療報酬改定、分娩取扱いの有無による診療内容の違いは反映していません。
  • 男女別の受療率が公表されていないため、総人口に受療率をかけています。地域ごとの性比の違いは反映していません。
  • 社人研の中位仮定という1つのシナリオの計算です。仮定が変われば結果も変わります。
  • 届出実数は施設の数であって、その施設の診療量や分娩取扱いの有無を示すものではありません。
  • ここで数えたのは自治体単位の集計値です。実際の診療圏は行政区画と一致しません。

お探しの市区町村の人口動態・競合クリニック密度はエリア別の開業データから確認できます。

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本記事は開業検討の参考情報であり、開業の成否を保証するものではありません。出典・参照資料:社人研R5推計(中位) / 令和5年患者調査 / 医療情報ネット2025-12。